25話 ページ25
「あ、あの……もう、その……終わったんですか」
途切れ途切れで控えめな声がして、そこでようやく私達は離れた。お互いの顔を見ないようにしながら目元を拭って、それから少女達に向き合った。
「うん、終わったよ。怖いものは、もう何もない。君達は自由だ」
優しく語りかければ、2人は抱きしめ合って安堵したように笑った。そこに傑が近付いて、力任せに檻を壊す。2人は檻から出て、私達を見上げた。許しを請うように。私は……私達は微笑んで、小屋の扉を開けた。
「外へ行こうか。行ける所まで、4人で」
傑は呟くように、穏やかにそう言った。私は2人の手を引いて、外へ連れ出す。2人は暫く小屋の外へ出るのを躊躇っていたけれど、軽く引っ張ったら諦めたように足を踏み出した。
外へ、夏の日差しが残る外へ。
「……あったかい」
これまでずっと黙っていた、黒髪の女の子がこぼれたようにそう口にした。その言葉を聞いた茶髪の子は相手を抱きしめて、「あったかいね」と繰り返す。いつしか、2人は抱き合って泣いていた。わあわあと声を上げて、自由と解放をその胸に抱きながら。
私はそれを視界の端で捉えながら、ぱんぱんと手を叩いた。傑が私を見る。
「……さてと、傑。証拠隠滅といこうか」
「証拠隠滅？全員殺したから、隠してもバレると思うよ」
「んん、殺したことを隠すっていうか……、『君がやった』って証拠をぼかしておくよ」
気休めにもならないと思うけど、と続ける。尚も傑は不思議そうにしていたから、そこでやっと私は、彼に術式を見せていないことに気が付いた。術式の開示にもなるし、教えておこうかな。
至るところに残された、彼の残穢に手をかざす。
「私の術式、前に『隠すこと』って言ったと思うけど。あれ、『曖昧にする』って表現の方が正しいんだよね」
存在を曖昧にする。輪郭を曖昧にする。境界を曖昧にする。色んなものごとを曖昧にして、相手から捉えづらくさせる。私達はそうやって、敵から認識されないようにしてるんだよ。だから、私達は護衛の仕事を頼まれる。
守る対象の存在を曖昧にすれば、敵から見つかりにくくなるからね。
そう告げれば、傑は納得したような素振りを見せた。
「そういう感じで、傑の残穢を曖昧にしておくよ。高専に戻らないし、すぐにバレると思うけど」
そう言いながら私は傑の残穢を、丁寧に、執拗に、慎重に、誤魔化していった。誰にも分からないように、傑の証を私の手で。
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作者名：べにしょうが | 作成日時：2022年5月7日 19時
