1話 ページ1
きっかけは、そんなに大したことじゃない。小さいが呪術師の家系に生まれ、相伝の術式持ちだったからそのまま高専に入学した。それだけ。それだけ、だったのに。
「君、名前は？」
「……夏油傑」
ズカズカと彼に歩み寄って開口一番そう言った私に、溢れ出す不快感を隠しもしない特徴的な前髪の同級生。彼の両サイドに居る黒髪の女の子と御三家の五条には目もくれず、私は傑に話しかけ続けた。
「夏油傑！うんうん、君にぴったりな素敵な名前だね。傑って呼んでもいいかな？」
「別に、いいけど。……君は？」
「私に興味を持ってくれてるの？嬉しいな。私はA。気軽に呼び捨てで呼んでよ」
「分かった。よろしく、Aさん」
私の要求を無視して敬称を付けた傑。呆然と立ち尽くす私に、思わずといった調子で吹き出す音が聞こえた。ちらりとそっちを見ると、お腹を抱えて笑う女の子の姿が。
肩口で切り揃えられた黒髪。目元を際立たせる泣きぼくろ。きっと、静かにしていたらダウナーな雰囲気を纏うのだろう。……今は大笑いしているから、そんな雰囲気はこれっぽっちも感じないけど。
「そんなに笑う……？」
「アレは笑うだろ。あーだめだ、思い出すとまた……」
ひぃひぃ言いながら、彼女はまた笑い始めた。……とうとう笑いすぎて咳き込んでしまっている。
「あー……。じゃあ、傑。これから3年間よろしくね。死ななければ」
「死ななければ……君がかい？」
「君のそういう所、既に結構好きだよ」
見るからに優男の顔つきのくせに、平気で毒を吐く。潔くて本当に好きだ。それをそのまま伝えると、傑はおかしそうに、屈託なく笑った。
……なんだ、君はそんなふうに笑うのか。
正直な所、私は高専というものに全く期待していなかった。同級生はたったの3人だし、いつ自分が死ぬかも分からない。ぶっちゃけると、私は入学したくなかった。
しかし、蓋を開けてみればどうだ。愉快そうな女の子に、私を胡乱げに見る傑。一目惚れなどという、そんな漫画みたいなことが本当にあるなんて！ああ、素晴らしき呪術専門高等学校！
にやにやと笑い出した私に、更に傑は眉をひそめる。気にしないで、と手を振り、そして私は確信した。……絶対、最高の3年間になる、と。
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作者名：べにしょうが | 作成日時：2022年5月7日 19時
