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「翼、ケーキ2つも食べるの?」


店員さんが立ち去った後、思わず尋ねた。

あ、でもあんなに動いていたんだもの。お腹空いてたのかもしれない。

先程のバスケの試合を思い出し、勝手に納得していたら翼が小さく笑った。


「違うよ。シフォンケーキはアーヤの」

「え?」


きょとんと目を瞬かせた。

私の?


「ん。アーヤ、すごく食べたそうにしてたから」


メニューに穴が空きそうなくらい見てたでしょ、と頬杖をついて肩を揺らす翼に頬が熱くなる。

わ、私そんなに見てた!?

恥ずかしくて思わず俯いた。


「で、でも今日そんなにお金持ってきてなくて……」

「大丈夫。奢るから」


奢る!?

さらりと何でもないかのようにそう言った翼にそっか、と頷きかけて我に返る。


「ダメだよ! 悪いよ、そんなの」

「うん。だからこれはお詫びの印だよ」

「……お詫び?」

「そ。今日、急に呼び出して連れ回すっていう迷惑かけているお詫び」


これならどうでしょ、と首を傾げる翼に私は口を閉ざす。

確かに、今日私は翼と何か約束をしていたわけじゃない。突然家を訪問され、あれよあれよという間に試合が始まって、翼と出かけている。

翼の言葉に間違いはない。
ただ1つを除いて。


「……そういうことなら、シフォンケーキは受け取る。ありがとう」

「うん。どういたしまして」


ぺこりと頭を下げながらお礼を言うと、嬉しそうに微笑む翼。
その姿を見ながら、目を鋭くさせた。


「だけどね、翼。私、迷惑だとは思ってない」


はっきりとそう言った私の言葉に翼はアーモンド型の目をぱちくりと瞬かせた。
少し幼くなったその表情を見つめながら畳み掛ける。


「私、今楽しいもの。さっきも言ったように私、ずっとブックカフェに来てみたかった。でも行く機会がなかったからこうして来れてとても嬉しい」

「……それは良かった」

「あと……翼とまたこうして出掛けられるのも嬉しい。もうこうやって笑って話したり、隣に並んで歩いたりすることってないと思っていたから」


好きだと気付くのが遅かった。
きっと私は翼のことがずっと前から好きだったのに。

大和くんのことを聞いたときの翼の表情に泣きたくなったのも、名字で呼ばれただけで嫌だと思って、胸が痛くなったのも。

全部、翼が好きだったからだって。


「立花。お前、そいつのことが好きなんだよ」


呆れたように修学旅行でそう言ったマリンの言葉を思い出した。



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セダム(プロフ) - むっちゃんさん» わー、ありがとうございます!!更新遅くてごめんなさい!続きも楽しんで読んでもらえればと思います! (2021年12月24日 21時) (レス) @page44 id: 188dd23746 (このIDを非表示/違反報告)
むっちゃん - 続きが気になって気になってたまらなく、気づいたら読み終わってました。最高です!! (2021年11月25日 22時) (レス) @page39 id: fa31dfe0b6 (このIDを非表示/違反報告)
セダム(プロフ) - 萸衣さん» あちらの方も読んでくださりありがとうございます!!どちらも更新不定期ですが更新した時は読んでくれると嬉しいです。頑張ります! (2021年7月31日 19時) (レス) id: 188dd23746 (このIDを非表示/違反報告)
萸衣 - pixivでもセダムさんの作品読ませていただいています。とても面白いのせこれからも更新がんばってください。 (2021年3月29日 20時) (レス) id: 1e603ecb86 (このIDを非表示/違反報告)
セダム(プロフ) - 千香さん» 大丈夫ですよ(^^)消しときますね! (2019年8月26日 22時) (レス) id: 188dd23746 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:セダム | 作成日時:2019年4月20日 19時

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