想い出のカケラ ページ27
とある六本木のお店。
路地裏のあるそのお店の前で、あたしは立ち止まっていた。
和からのメールを頼りにやって来たが、なかなか入れない。
お礼がしたいと言ってはくれたが、相手は芸能人。
こんな外で会うなんて危険だし、和にはあんなに綺麗な彼女がいるじゃないか。
そんなことを考えていると、色んなものがグルグル回って収集つかない。
まぁいいや。
挨拶だけして帰ろう。
勢いのまま、店内への扉を開いた。
「おっ、おつかれー。ちゃんと来たじゃん(笑)」
『お疲れ様です。あんな一方的に切られたら、無視して帰る訳にはいかないじゃないですか……』
行くと言わないあたしに痺れを切らしたのか、和は自分の言いたいことだけ言って電話を切ってしまった。
「まぁ座りなさいよ(笑) 直ぐ帰るとか、却下だかんね」
あたしの考えは、ことごとく見破られる。
和はあたしに飲み物だけを聞いてきて、あとは適当に注文したようだった。
店員さんが出て行った個室。
2人きりになって、沈黙がやけに重たい。
和の煙草を付けるライターの音が主張するかのように響いた。
『あの………、こんなとこに一緒に居て、大丈夫なんですか……？」
誰に見られてるかわからないと思ったら落ち着かない。
「警戒し過ぎだから……(笑) ココね、オレらよく来んのよ。店長サン、翔ちゃんのオトモダチだし」
そう笑ってみせた和。
でも落ち着かない原因はそれだけじゃない。
さっきから和の見せる表情が、最初に家に行った時とは違って見えるから。
風邪を引いていた時の和のような。
昔と変わらない……、そんな表情。
あの時感じた錯覚が蘇ってきてるようで、胸の奥がざわつく。
「つーかさ…、何で“ニノミヤさん”とか言ってんの？」
『…………“二宮さん”以外、何があるんですか？』
「昔は“カズ”って呼んでたじゃん」
咥え煙草で店員さんから料理を受け取った和は、テーブルに並べながら取り皿を手渡してくれた。
「なんか……、Aに“ニノミヤさん”とか呼ばれんの、すげぇヤだ……」
寂しそうな和の笑顔。
そんなの狡いよ。
あたしから離れて行ったのは和じゃない。
何も言えないあたしは、膝の上のハンカチを握る。
少しだけ蘇った錯覚を追い払うように。
でもそんなの、もう手遅れだった。
「ほらっ、コレ食いな……？ A、コレ好きだっただろ？(笑)」
こんなたった一言で、色んなものが湧き出してくるなんて。
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作者名：凛
| 作成日時：2013年10月31日 2時
