夢現 −past− ページ13
和があのアイドル事務所に入った噂は瞬く間に広がり、入所して半年が経つ頃には学校中の女の子が騒ぐようになっていた。
昼休憩や放課後に呼び出されているところを見ることも少なくなかったが、それでもあたしの隣に和が居てくれることに変わりはなかったから、何処か安心し切っていたんだ。
ある日の昼休憩、知らない女の子に声を掛けられる。
「仁科さん……、ちょっといい？」
小学校から持ち上がりで仲の良かったハルに断りを入れて、声を掛けてきた女の子について行く。
行き着いた先は、屋上に上がる途中の踊り場だった。
「仁科さんって……、二宮くんと付き合ってるの？」
名前も知らない人からぶしつけに投げかけられた質問。
知りもしない人に答える必要があるのか、あたしには理解し難かった。
『付き合ってないけど……』
付き合うとか付き合わないとか、あたしと和の仲はそんなモノじゃなくて。
ただ、一緒に居たいだけ。
小さい頃からずっとそうだったし、これからもずっとそうだと思ってた。
「付き合ってないなら、あまり二宮くんに近づかないで。二宮くんのことを好きな女の子は沢山いるんだから」
そう言って走り去って行った彼女。
あたしはただ呆然と、彼女の後姿をジッと見ていた。
彼女の言った言葉が、頭の中で鳴り響く。
小さい頃から当たり前だったことも、大きくなっていけば当たり前じゃなくなっていくなんて。
隣に居ることが許されなくなると思うと、悲しくて苦しかった。
一つ二つと零れ落ちていく涙を隠すようにしゃがんでいると、目の前に見えた、青色の上履き。
「A………」
『かずっ……………』
和はあたしの正面にしゃがみ込んで、優しくあたしの体を包み込んでくれる。
「そんなに泣いたら……、可愛い顔が台無しだろ……？(笑)」
やっぱりあたしは、優しい和の手を自ら離すことなんて出来ない。
「Aはさ……、オレのこと……好き？」
頭上から聞こえてきた和の声。
そんなこと、答えてはわかってるくせに。
『……………好き』
和の胸元に顔を埋めながら答える。
和は一瞬フッと微笑むと、体を離してあたしの視線を捕えた。
絡み合う視線。
涙の膜でボヤけて見えるけど、和の顔がゆっくりと近づいてくることは理解出来て、あたしは自然と目を閉じる。
口唇に触れた、柔らかい感触。
あたしと和の、ファーストキスだった。
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作者名：凛
| 作成日時：2013年10月31日 2時
