だつりゃくされた揺蕩う為か ページ48
怒った声がわずかに震え、すぐに電話は繋がらなくなった。
御堂筋くんが切ってもなお、私はスマホを耳に押し付けていた。
「期待してほしいなんか、頼んでへんわ」
舌の奥が重い。口に含んだ空気の塊を無理やり呑み込んだ。
「期待されんでも、私は」
ベットにスマホを投げた。
アカン、宿題の続きをしな。腹から湧く怒りを、手のひらに込めて、またシャーペンを握った。なんやの。なんやのあの言い方。御堂筋くんなんか。御堂筋くんなんか。ボキッと芯が折れる。文字が潰れる。手がずれてノートが破けた。ふたたび向き合った数学のノートがぐちゃぐちゃだった。食いしばった歯の痛みが頭を締め付ける。
机の上を放ったらかし、私はおばあちゃんの遺書をひっつかんでポケットに入れ、おばあちゃんのカメラを胸に抱えた。写真を撮っていた。自分の部屋を、鏡に映る自分を、撮れるものは全部撮った。どれを撮っても不快なった。太ももを殴った。現像する前から写真がすべて、下手だと分かったからだ。階段を降り、場所を変えた。仏間やおばあちゃんの部屋を撮る。綺麗じゃない。古いカメラだ、レンズが汚い。そもそも私じゃ実力が足りない。足りなさすぎる。わかっていた。知っていた。でも理屈じゃ言えないものが溢れて、撮影する手を止めさせなかった。負けたくない、やめたくない。でも思い通りに撮れない。太ももを殴った。私は下手くそだ。本当にクソだ。悔しい。悔しい。悔しい！悔しいのに、現実は何も変わらなかった。おばちゃんみたいに撮れない。おばあちゃんより綺麗に撮れない。太ももを叩く。右手の拳が熱くなる。それでも殴った。ずっとずっと殴った。終われない、止めれない。こんなに悔しくて負けっぱなしのままで、止まることができない。殴った。太もものポケットが、グシャと鳴った。
ポケットの中に遺書が入っていたのを、ようやく私は思い出した。
〇〇〇〇〇〇
リビングに入ると、母がテーブルで缶ビールを煽っていた。
「まだ起きてたの、早く寝て」
私はすぐにリモコンを手に取り、テレビの電源を消した。羽虫が蛍光灯にぶつかって、缶ビールの上に落ちてくる。ゆっくり椅子に座り、私は遺書をテーブルに置いた。
「読んで」
ジジ、と蛍光灯が揺らめいた。母の小さい黒目が目の端に寄る。
「ちゃんと読んであげて」
「偉そうに、それにこれ、グシャグシャやないの」
「ええから、読んで」
鼻を鳴らし、母が静かに手を伸ばす。私はそれを黙って見つめていた。
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niko(プロフ) - 続き楽しみです！！ (2021年2月24日 18時) (
レス) id: 5a93e0b570 (このIDを非表示/違反報告)
Aaa(プロフ) - 更新楽しみにしてました！！面白いです！！！応援しています！ (2021年2月23日 21時) (レス) id: 71d8bfbda5 (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 初コメ失礼します。面白くて一気読みしちゃいました！応援しています！次の更新楽しみにしています頑張ってください！ (2021年1月30日 1時) (レス) id: c173f50722 (このIDを非表示/違反報告)
tiku - 御堂筋君だけじゃなく、今泉くんや坂道くんの描写もリアルで面白いです。総北メンバーと仲良くなる過程が見ててホッコリします。ずっと応援してます！無理せず頑張ってください！ (2021年1月1日 1時) (レス) id: 198aa8db09 (このIDを非表示/違反報告)
こはたん - 面白くてついつい夢中で読んじゃいました。笑 次の更新楽しみにしています！ (2020年12月25日 20時) (レス) id: a69cf6929b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杞憂 | 作成日時：2020年10月9日 22時
