. ページ25
.
「…ま、もしダメだったら俺んとこ来いよ」
『…それは嫌』
「何でだよ」
『だって、翔は私にとって大切な親友だから』
はっきりとそう答えれば、翔は困ったように笑う。
「そうかよ。…なら俺もAが大切な親友だから、幸せ願っといてやる」
『…本当、言うことが男前だね』
「実際にそうだろ？」
『うん、そうだね』
「俺を振ったこと、後悔すんなよ〜」
なんて言いながら優しく笑ってくれる彼に救われた。
『…私も、もう先輩に気持ち伝えちゃおうかな』
家に帰ってからもなかなか寝付けなくて、そんなことを考えていれば朝になっていた。
気持ちを伝えてくれた翔を見ていたら、自分が酷く情けなくなって。
勝手に期待して傷ついて苦しむ自分が嫌で、すべてから解放されたいなんて思い始めていた。
そんなタイミングでスマホが鳴るから、心臓が跳ねる。
『…もしもし』
「もしもし、A？今日の夜、会える？」
そう言ったのは、こんな状況でもやっぱり好きで仕方ない、きっと私を幸せにはしてくれない人。
『…分かりました』
「ん、待ってるね」
通話終了のボタンを押して、決心する。
今日こそ、自分の気持ちを伝えてこの関係に終止符を打つと。
『…こんばんは』
「ん、おいで」
そう言った凪先輩の声は、なんだかいつもと温度が違う。
玄関まで出迎えてくれたかと思えば強い力で腕を引かれて少し怖くなる。
いつもなら優しいはずなのに、様子が明らかにおかしかった。
『…凪先輩？』
「ん？」
『ちょっと痛い、です』
「ん、ごめんね」
そう言いながらも、いつもの優しい彼には戻ってくれない。
きっとこれで最後なのに少し悲しいな、なんて頭の片隅で思いながら身体を重ねた。
『…何かあったんですか？』
「どうして？」
『いつもと、違ったから』
「…へぇ、どうでもいい男のこと心配すんの？優しいんだね」
そう言い放つ彼の目は冷たい。
こんな態度を取られたことは今まで一度もなかったから、思わず戸惑ってしまう。
『…どうして、そんな言い方するんですか？』
「何でか分かんない？」
『…分からない、です』
「彼氏いるクセに、どんな気持ちで俺に会いに来てたの？」
『え？』
突然そんなことを言われて、思わず頭が真っ白になった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 143人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：chiito | 作成日時：2023年4月14日 20時
