青春の1ページにひとつ垂らした汚点 ページ3
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いつも纏う空気はゆるゆるとして柔らかくて、何かと気にかけてくれる優しさも持つ凪先輩。
けれど試合中になれば別人のように変わる。
そんなギャップにも心掴まれて、気付いたときには夢中になっていた。
「疲れた〜」
『お疲れさまでした!』
「ハット決めたよ」
『凄かったです、本当に』
「えらい?」
『ふふ、偉いです!』
「でしょ?もっと褒めて」
そう言って頭を差し出す彼を可愛く思いながら、促されるままに撫でる。
もしマネージャーが私じゃなくてもこんな風にするのかな、なんて想像してしまえば胸が苦しくなった。
『先輩たち、今日も残りますか?』
「あぁ、片付けはこっちでやっとくから帰っていいぞ」
『いえ、今日はちょっとやりたいことがあるんで私も残ろうと思って。戸締りはこっちでするので大丈夫です!』
「そうか?じゃあ頼むわ」
『はい、それじゃあお疲れさまです』
その日は溜まっていた記録をまとめてしまおうと部室で残っていた。
音楽でも聴きながら、なんて思いイヤホンをしたまま作業する。
だから誰かが部室に入って来たことにも気づかなかった。
『ひぁ…っ!?』
「あ、ごめん」
突然ひんやりと冷たい何かが耳に何かが触れて、音が途切れる。
驚いて振り返れば、そこには凪先輩がいた。
『び、っくりした…凪先輩』
「声かけたんだけど、聞こえてないみたいだったから」
『すみません、音楽聴いてました…』
「集中してたね」
『記録、溜まってたんでまとめてたんです』
「へぇ」
そう言って私の背後から覆い被さるようにして記録を覗き込む。
その近すぎる距離に心臓が忙しなく動く。
「…こんな仕事もあるんだ」
『そうなんです。最近時間が足りなくて、後回しにしちゃってて』
「ふーん…」
興味があるのかないの分からない返事をする彼を下から見上げる。
鼻が高いなぁとか、目がぱっちりだなぁとか、色白だなぁとか。
ぼんやりとそんなことを考えて眺めていれば、
「…見過ぎ」
『え!?あ、ごめんなさい…!』
「…見惚れてた?」
『いや、えっと…!』
「顔、真っ赤だけど」
そう言って顔を近づけてくる。
けれどこんなの、赤くなって当然だと思う。
好きな人と、お互いの鼻と鼻が触れそうな程の至近距離なのだから。
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作者名:chiito | 作成日時:2023年4月14日 20時