# パレット 【 ヒプマイ短編集 】

譲れない × Jyakurai.J ページ15

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『 先生。 』








「 どうしたんだい、Aさん。」







『 …私いつ退院出来るかな。 』







「 もう少し経過を見てからだね。 」








6階西病棟の個室に入院している観音坂Aさん。


独歩くんの妹さんで1年近く入院している。








『 …困らせてごめんなさい。 』








「 いや、私は医者だからね。

それに、医者でありAさんの恋人でもあるからね。 」









『 先がないかもしれないのに…先生はどうして私を好きでいてくれるんですか？ 』








君だけは譲れないって言ったら、君は困るかな。









「 先がないだなんて悲しいことを言わないでほしい。 」








『 …ごめんなさい。 』









「 私はどんなことがあっても君だけは他の誰に渡すことは出来ないんだ。

…迷惑かな？ 」








『 迷惑だなんてとんでもないです。

先生に出会って私もお兄ちゃんもかわったんです。

私は先生に感謝しかないです。 』








「 そんなことを言ってもらえるのはありがたいね。 」









それに感謝しなくてはいけないのは私の方だ。









「 君だけは誰にも譲れない。

Aさん、こちらこそありがとう。 」









君に会えたことが私にとっては最大の幸福だろう。









「 Aさん、そろそろ時間だよ。 」









『 …ッ、さよなら…ッ。 』









彼女はもうこの世界のどこにもいない。


私の彼女に対する思いが生んだ幻想かもしれない。


Aさんはこの時間だけこの西病棟に現れる。









「 このまま覚めない夢を見ていたいだなんて私らしくない。 」









また生まれ変わっても私は君を思うだろう。









(( 先生、久し振りに一緒に花を添えに行きませんか。 ))


(( …そうだね、一緒に行こうか、独歩くん。 ))









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