#11 ページ26
『わたしだって帰りたくないけどさ、それ以上にお風呂掃除をやりたくないんだよ。』
「まぁ、しょうがねぇよな。」
「とりあえず送ってやるから、もうちょっといろよ。」
『三ツ谷…！』
なんだろう。三ツ谷が神様に見える。
「でもよー、この先不便じゃね？」
「門限何時なんだっけ？」
ドラケンの問いかけに食い気味で答えてみる。
『18時。』
「「「「「はや。」」」」」
更に食い気味にみんなが反応する。
やっぱり早いよね。
「だからさー、Aはうちに来ればいいって言ってんだろ？エマも喜ぶぞー。」
そう。マイキーはずっと言ってくれている。
佐野家に来れば良いと。
だけど、これ以上佐野家に迷惑はかけられない。
マイキーの紹介と言う事で道場へもタダ同然で通わせてもらっている上に、他の人よりもだいぶ長い時間道場を使わせてもらっている。
真一郎くんも先生もエマも、親元を離れているわたしの事をとても気にかけてくれている。
お世話になりっぱなしなのだ。
『気持ちだけありがたく受け取っておくね。』
「ちぇー。そればっか。」
何度も聞いた台詞に不貞腐れるマイキー。
「そんなに寮が嫌ならよー、一人暮らしすりゃいーじゃん。」
『…』
パーちんの発言に目を丸くする。
「オレら中学生だぜー？家なんか借りれねぇだろ。」
「それに、寮に入る事がこっちに残る条件だったんだろ？」
「じゃあだめじゃん。」
胸につかえていたものが無くなった感覚。
灯台もと暗しとはこの事か。
光が見えた気がした。
『パーちん！』
「？」
『そうだよね！』
「は？」
『嫌なら出ればいい話だよね！』
「A？」
『ありがとう!!!!』
「お、おぉ。」
わたしの圧に押されているパーちん。
進む先が見えてきて嬉しくなる。
今なら走って帰れそうだ。
『じゃあ、わたし帰るね！またね！バイバイ！』
「……待て！A！じゃぁオレも帰るわ。またな！」
「またなー。」
「…何だったんだ？」
「さぁ？」
そうか。そうだ。
《寮に入ること》が条件だったから、
寮は出られないものだと思い込んでいた。
嫌なら出れば良いのだ。
両親を説得出来るだろうか。
いや、絶対説得してみせる。
やる気に満ち溢れて駆けるわたしを三ツ谷がバイクで
追いかけて来てくれるまであと少し。
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作者名：Tmwixx | 作成日時：2022年7月23日 10時
