夢の中へ ページ25
ここは、どこだろう…。
目を開けた時、森の中の草むらに突っ伏したように横たわっていた。ゆっくり顔を上げると見たこともない自分の背丈程のてんとう虫が二足歩行で列をなしている。
「やあお嬢さん、こんにちは。」
「ごきげんいかが？」
「今日は幾日ぶりかの晴天だね。我々家族は叔父一家と旅行に行くんだよ。」
先頭を歩いている紳士風のナナホシテントウが立ち止まって説明すると、後ろの数匹も軽く笑顔で会釈をする。
男性、いや雄と言うべきだろうか。揃って首に青色の蝶ネクタイをつけて頭にはシルクハット。
背の低い雌は頭にリボンをつけている。
麦わら帽子は婦人だろうか？微笑みながら先頭のテントウの背中を押し、一行は再び歩き出していってしまった。
――まるで童話の“ふしぎの国”みたいだ…。
摩訶不思議な光景に目を丸くしたまま暫く唖然とするが、取り敢えず立ち上がろうと地面に手を付こうとした時、今まで何かを握り締めていた事に漸く気付く。
私は立ち上がってから、ゆっくりと手のひらを開いた。
「あ…飛影の…」
胸がチクンと痛んだ。
手に握っていた物は、彼が大切そうにいつも首から下げていた綺麗な硝子玉のような石。
そうだ、私は飛影から逃げてきたんだ…。
飛影とは付き合い始めて、もう随分と経つ。
彼は今、基本的には魔界に住んでいて、しかも普段は躯 という女の人と一緒に暮らしているらしい。
飛影が「上司と部下だ」なんていうから気にしないふりをして気丈に振る舞っていたけど、人間界に暮らしてた頃に比べて会う頻度も少なくなっちゃってるし。
そして何より、魔界から久々に帰ってきた彼の首に下げられてた物が気になって気になって仕方がなかった。
普段は服の下に隠してる意味深な二つの首飾り…。
それとなく訊ねても、飛影ははぐらかしてちゃんと答えてはくれない。
「見せてほしい」といった私の要望に応じてはくれたけど、無言で投げ渡してそっぽを向いた彼の横顔を石を見ながら盗み見た時、無表情の中に何かを秘めた儚げな瞳に胸が締め付けられた。
躯という女性と関係ある石なのかは分からない。だけど疑ったりしたくない。離れ離れでも平気だと思いたい。
ただ、ちょっとしたきっかけが私の不安を掻き立てる。
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作者名：ゆめ | 作成日時：2021年10月8日 3時
