ウチの好きな人は (ページ8)

今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:7,660 hit

六月の好きな人1-2 ページ8

『っ…‼』

「停電か」

雷のせいで先ほどのホロは消え去り部屋は暗く、家電が稼働している音さえ聞こえなくなった。

Aは不安でたまらないというふうにウチのつなぎを掴む。

「ただの停電だ、ウチが居るから安心しろ」

できるだけ優しい口調でAの髪を梳いてやった。

ピシャン‼‼ ゴロゴロゴロ‼‼

2度目の雷に、Aは再び身を強張らせた。

『うぅ…』

「そんなに苦手だったか、雷」

『そこまでではないんだけど…こんなに大きいとちょっと…』

「だったらこうしてるといい」

ウチはAの片耳を手で塞ぎ、もう片方の耳を胸元に押さえてやった。

『わ、スパナ⁉ これ、恥ずかしい///』

今更なにを照れることがあるのだろうと思いつつ、ウチは無言でAを抱きしめた。

それからはあっという間で、白い雲の隙間から覗く空は青かった。

町の建物や植木の雨粒は、キラキラとしており宝石のようだ。

そうだ、宝石といえば……

「A」

『なに？』

「これ」

ウチは白い小箱をAに渡す。

中味を見てAは目を見開いた。

『指輪…』

「ああ、結婚指輪だ」

Aはダイヤのリングを見つめポカンとしたまま何も言わない。

「どうした？」

『………すぎて…』

Aの口から漏れた言葉はよく聞き取れなかった。

『唐突すぎて…何て言ったらいいか分かんない。もう、もらえないと思ってたから……』

たしかに新婚生活がスタートして2ヶ月、だいぶ遅い贈り物になってしまった。

「わるい、どれにしようか悩んでたんだ」

『ううん！嬉しい…ありがとうスパナ』

よかった、喜んでくれた。

「指輪は式ではめてやるから、それまでは見るだけにしてくれないか？」

『うん！楽しみにしてる！』

Aは幸せそうに笑って、指輪を晴れた空にかざした。

ダイヤのリングは、Aの笑顔をよく引き立てるに違いないと思った。

6月15日
ウチの好きな人は式を楽しみにしている。