ウチの好きな人は (ページ6)

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六月の好きな人1-1 ページ6

6月、ウチの好きな人は、雨の日にホットコーヒーを飲む。

イタリアの6月は天気が良いはずなのだが、今日は珍しく雨だった。

しとしとと降る雨は嫌いじゃない。

よく町が雨に洗われるなんて表現があるが、まさにそんなふうだ。

町は静かで非日常で、しっとりとした空気が鼻腔を掠める。

「A、コーヒー飲むか？」

『うん、ホットで』

台所に向かい、ふちがぷっくりとした赤いマグとコーヒーショップのロゴが入った白いマグを手に取る。

これらのマグは最近買ったばかりのものだ。

陶器の底と豆が触れ合う音がサラサラと台所に響く。

お湯をそっと注いでいくと、一気に湯気が立ち上り味わい深い香りが部屋に広がった。

赤いマグにはミルクと砂糖も入れる。

「A、熱いから気をつけろ」

『ありがと』

のんびりとしたこのひとときは、かなり幸せである。

『そうだ、せっかくの雨だし紫陽花見たい！桜のときのホロ出して！』

Aは4月に見せたホログラムが相当気に入ったらしい。

たしかに、日本特有の四季を愉しむにはもってこいのアイテムだからな。

ウチはプロジェクターを押入れから取り出すとスイッチを入れ、カタカタとPCで入力する。

すると一筋の紫陽花の道が広がった。

『きれい…！』

「A、ホロをよく見てみろ」

Aは目を凝らしてハッとした。

『雨……？部屋で雨が降ってる‼』

そう、今回は紫陽花だけでなく雨も降らせてみたのだ。

部屋には銀色の筋が上から下へ絶え間なく降りかかっている。

「雨に触れてみろ」

Aの手がホロの雨を迎えると、その銀筋はたちまちちょぴんと弾け散った。

『え⁉ 弾いた⁉ 今、わたしの手に弾かれた⁉』

「桜のときは風を感知したが、今回は物体を感知するんだ」

『なにそれすごい！』

Aは大はしゃぎであちらこちらの雨を掬っては弾かせている。

その刹那、町全体が白く光った。

ピシャン‼‼ ゴロゴロゴロ…‼