chewing gum

#15 ページ15

side_Taiga




ダンスホールの中には小さなステージがひとつと、

あとはガラクタが散らばり、見事な廃屋だ。


「ここ、バブル時代はけっこう栄えてた

ダンスホールだったらしいけど…

今じゃこのありさまでさ、なんか…滑稽だよな」


樹はステージに上り、ダンスホールをグルーっと

見渡す。


「金を持て余した奴らがバカみたいに踊ってさ、

イイ女見つけては貢いで…そう考えると、

ここは現実を忘れるための楽園だったんだろうな」


そう言うと樹はステージから下り、俺の元へ

歩み寄った。


「…でも、俺もそんな奴らと何ら変わりない

奴なんだよ。だから辛い時とか、ここに来るんだ」


「…そんな場所、俺に教えてよかったの？」


「…もし辛い時ここに来て、大我がいたら嬉しい。

だから教えた」


樹は俺の頬に触れ、笑った。


その笑顔は優しく、消えてしまいそうなほど儚い。


樹もこんな顔するんだ…


触れられている頬が徐々に熱を帯びる。


樹は気づいているのだろうか。


なんだか恥ずかしくて目を伏せて樹から

顔を逸らした。


「…雨」


「え…」


樹の言葉に顔を上げ、外を見ると雨が

降り始めていた。


ザーザーと降る雨を見ていると、なんだか

子どもの頃を思い出す。


小さい頃、一度だけ土砂降りの中、外へ飛び出した

ことがある。


ずぶ濡れになれば、親が心配してくれると思った。


そんな期待を胸に家に帰ると、母親はこっぴどく

俺を叱りつけた。


そんな濡れた格好で家に入るな、誰が洗濯すると

思っているの…と、予想外の言葉の数々に俺は

幼心ながら失望したのを覚えている。


そんなことを考えていると、俺の足はゆっくり

外へ向かい、全身に大粒の雨が降り注いでいた。


樹はどっち側の人間なんだろう。


心配するのか、叱るのか…


樹は…


「…冷たいね」


そばにいてくれた。


俺の横に立ち、一緒に濡れてくれていた。


そっか、そんな温かい答えもあるんだ…


嬉しくてこぼれた涙は頬を伝うも、雨がそっと

隠してくれた。




.

#16→←#14

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す