英智の欠片 1/1 ページ13
.
「君は、いつも楽しそうだね」
僕は、ふと目の前に座る子に話しかけた。
本当、意識なんてしていなかったし、彼女も油断していたので目を見開いていた。
僕とAはお付と主人のような関係だった。
ただ病弱な僕をAがべったりと監視に似たことをしているだけだけど。
彼女だって女子高校生なのだから、自由にさせてあげたいが……。
皮肉なことに、僕の身体は意思とは反しどんどん根を上げていくのだ。
「『皇帝様』には、お気に召しませんか？」
「いや、ただ幸せそうだったからね」
「あはは、そう？」
笑顔になるA。
僕の愛してやまない笑顔。
この笑顔は、楽しい、幸せという感情を表現しているようだった。
きっと僕は彼女に恋をしているのだろう。
だって、あの笑顔を誰にも見られたくないと独占したがるのだから。
冷静に分析してみれば滑稽だけど、いざ自分となってみれば熱くなるものだ。
それすら、傍から見れば滑稽なのだが。
「でも私、英智さんとお茶してる時も幸せですよ！」
「……そうかい？」
死にかけの僕とお茶をして、楽しいことなどあるものか。
だが身体は正直で、お世辞だとわかっているのに頬が緩む。
Aは紅茶を入れ直し、角砂糖を茶に溶かした。
スプーンでかき混ぜると、カランカランと小気味いい音が聞こえてくる。
「英智さんも、お茶を飲んでいるときは幸せそうだよ」
角砂糖をかき混ぜながら、僕の方をちらと見た。
その表情は、なんだか悪戯気で物言いたげであった。
「なんで？」
彼女の意図が、どうやらわかってしまった。
主人の弱みを握ろうとしているのだろう。
＿＿だが、そんな見え透いた罠に引っかかる獲物はいないさ。
僕はカップを手に取り、一口飲んだ。
そしてにっこりと表情を作る。
「なぜって……、紅茶が美味しい他にあるかい？」
彼女は、満足そうに笑った。
＊3月10日更新＊
ユザラン153位・過去最高47位ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 27人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：桃 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年2月26日 19時
