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11.F ページ11

1日ってこんなに長かっただろうか。
それだけ心身ともに悲鳴を上げていたらしい。
ホテルの壁際に身を寄せながらズルズルと地面に沈む。


各々が自室へと戻る中、すれ違うたまの視線にピクリと身体が反応する。
咄嗟に沈んでいた身体を持ち上げて、思わずその腕を掴んだ。


F「たま…っ、」


T「…言ったじゃん、がやには譲らないって。」


たまの有無を言わせない態度に一歩も動けない。


イヤだ。


と思ってしまう。


渡したくない。


と願ってしまう。


(おれのモノでもないのに。)


掴んだ手からするりと抜けて俺を一瞥した後エレベーターへと向かうたま。
そこから一歩も動けずに呆然と見送る始末。


どうにかしなくちゃ、
北山がたまの…誰かのモノになってしまう。

そうやって、心のどこかでぼんやりと思うのに固まったまま動かない身体が、中々言うことを聞いてくれない。


どれだけの時間が過ぎたのか。
無意識にポケットに仕舞っているスマホに手を伸ばす。と、同時に焦ったように早くなる歩幅。
目の前のエレベーターのボタンを意味もなく連打する。


〜♪


繋がるコール音。
だけど、当の本人には繋がらない。


(たまといて気付かない…?)


普段こんなにも愛しい名前をスマホで目にすることはない。けど、どうしても北山に繋がってほしい。
堰を切ったようように鷹が外れて、感情の赴くままに動く自分。


その後どうなるかななんて、1ミリも考えていない。
それだけ、北山とたまを二人きりにしたくなかった。
じゃないとたまはきっと…、


たまの瞳を見て、どうゆう覚悟を決めたのかなんて、簡単に想像できた。


(嫌だ。渡したくない。おれだって…北山のことが好きなんだ。)


繋がらない電話をもう一度発信する。


F「…お願いだから、気付いて。」


やっと降りてきたエレベーターに素早く乗り込む。さっきと同じ様に目的の階数と『閉』ボタンを連打する俺。


(…しまった、エレベーターじゃ電話できないじゃん。)


後先考えず行動した自分の行為に、ふと後悔の念が押し寄せる。途切れた電波マークを見つめて、それから上がっていく階数表示を確認する。


チン、


なんて、高級ホテルに似つかわしくない小気味よい音を鳴らして目的の階に到着する。


開く扉の時間すら惜しい。開いた隙間から無理やり身体を捻じ込ませながら、薄暗く淡い光が広がる廊下へと静かに足を踏み降ろした。

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作者名:ちぇり子 | 作成日時:2017年4月24日 2時

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