_ ページ4
川から出て、草の生えた川辺の小坂に仰向けに寝そべる。
寒いぐらいだった身体は、この真夏の暑さですぐさま火照ってしまった。
水滴が全身の肌を滴る感覚、なんだか幼児期に戻ったような清々しさがある。
「さっきはすみませんでした」
「いえ、私こそ誤解させてしまったようで」
「……あの時、何を言おうとしてたんですか」
「聞こえてましたか」
「聞き取れはしませんでしたけどね」
身体を起こして右側で寝転ぶ彼女に、精一杯真剣な眼差しを向ける。
どこか無虚な彼女が恋しいけど、これだけは何故かはっきりさせておきたかった。
彼方からも視線が返ってきて、横に干されていた麦わら帽子が宙に浮く。
サンダルの元へ歩いていき、垂れた重いワンピースを纏って。
人気も生き物も何も、僕達と川と水音以外に何もない空間で。
「__次、お会いした時に。お伝えします」
「……そうですか」
けれど、それ以来彼女が川辺に来ることはなかった。
雨が降る日は勿論、快晴でも曇りでも、あの月白のワンピースは見つからなかった。
メンバーに話しても、「やっぱり幽霊だったんじゃないの?」とか仄めかされたりするだけ。
本当に、あの七日間は幻想の出来事だったのだろうか?
もしかしたら会えたりしないだろうかと、街中でもその顔を探した。
それでも、僕の観察眼が鈍いのかあの面影を持つ人すら見当たらない。
未練がましくあの川沿いをジョギングするようになって、丁度一年ぐらいが経過した。
あの頃と同じ晴天、蝉の声に高い太陽。
懐かしさに浸りたくなり、体育座りで微睡む。
弱々しく呟いたため息は、川の流れに消えていく。
いつかの彼女の言葉が思い出される、川は彼方此方へと廻って繋がっているのだとか。
それならば、この僕の想いも届けてはくれないだろうか。
「あら、先客ですか。残念」
理解するのに、時間は要らなかった。
訪れていた眠気も、心を取り巻いていた不安も、何もかも霧が晴れたように過ぎ去って。
周りの目など気にもせず、声の主を長く伸びた白い生地ごと腕の中に閉じ込める。
「来ないかと思いました」
「一応約束しましたから」
「でも遅すぎます」
相変わらず飄々とした返し。
最後に見た彼女も、今の彼女も変わらない。
「もう離しませんから」
彼女から伝わる暖かさと鼓動の音は、きっと幻なんかじゃなくて。
今は、次に彼女から紡がれる言葉をただ待とうか。
*
絶対違う(ノルマ達成)
159人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「短編集」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やまうみ。 - 山さん» ありがとうございます!許可とらなくても良いんですか...?やっちゃいますよ...?山様も、僕の作品で書きたいものがあればどうぞどうぞ(無いと思うけど) 注意書しておきます、ありがとうございます!これからも続く限りずっと応援と尊敬と敬愛を忘れません! (2019年10月22日 10時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
山(プロフ) - やまうみ。さん» 全然大丈夫ですよ、寧ろ許可なんて貰わなくてもどんどんインスパイアして貰えば…… 注意して欲しいこと……は、そうですね。万が一読者様に『パクりなんですか?』と聞かれたら事情説明がややこしそうな気も……その作品の中で注意書きは書いた方がいいですかね? (2019年10月22日 9時) (レス) id: c5ddeb2343 (このIDを非表示/違反報告)
山(プロフ) - echoeighter8さん» 了解しました!他の作品も急ぎ足で書きますのでお楽しみに…… (2019年10月22日 9時) (レス) id: c5ddeb2343 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 「時間制限賃貸彼氏」という作品をお相手と所々を改変して書かせていただいてもよろしいでしょうか。いや、ダメだったら全然断っても良いんです!この間のは拒否権がない感じになってしまったので。良いかダメか、注意してほしいことなど教えてください! (2019年10月22日 8時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
echoeighter8(プロフ) - 山さん» 続編書いていただけるなら全然待ちます! (2019年10月21日 13時) (レス) id: a38f594748 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ