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あれから誘われること数回、食事の連れと称したお財布係として連れ回されている。
呼び出す時も、勿論訳のわからん文章を綴ってくる。
恋沙汰に無頓着そうな僕がマドンナ的存在の笹倉さんと一緒に居ることは他者の目には余程珍しく写るようで。
僻み、尊敬、嫉妬、色々と言われ放題の中、挙げ句の果てには最初に彼女の存在を教えてくれた友人に「お前どうしたんだ」と心配された。
そんなにか、そんなに僕の評価は低いもんなのか。
「別に良いだろ、どうしようと……」
「あら、誰と話してるの?」
「え、あぁ。前日色々と言われまして」
「だいたいわかったわ……とても嬉しそうね」
「お陰様で」
暫し放心していたらしく、手元のリゾットは既に冷めきっている。
無意味と思われる皮肉を返す、自棄になるのも許してほしいもんだ。
その苛立ちすら見抜かれて、そして笹倉さんにとって弄りの材料となっているのかと考えれば考える程、僕の中の下らないプライドが炎を燃やす。
「何故そんなにも上辺事を並べるんですか」
「……無意識、かしら」
どうしたら一泡ふかせてやれるか。
景気づけに大口で食事を頬張って、思考を捻ってみる。
からかうか、少しでも動揺すれば此方のもの。
「笹倉さん」
「何かしら、私今日は午前まで暇なのよ」
「なら……あ、どっちみち手短に話しますので。あの初対面した日から度々食事に誘われておりますが」
「そうね」
「それはつまり、僕に気があると捉えて宜しいですね?」
一定のリズムを作っていた、彼女の食事の手がピタリと制止、音が止む。
当たりか、働く欲求が速く速くと答えを急かしている。
……こんな年下の女性に問い詰めて、一体自分は何がしたいんだろうか。
その回答は、ただ自分が気づきたくない感情なのかもしれない。
「そうね、その通りよ」
嗚呼、その言葉はどっちなんだろうか。
そして後輩一人に振り回される自分はなんてちっぽけなんだろう。
その仕草に、嘘に、骨の髄まで虜にされてしまったに違いない。
「奇遇ですね、僕もです」
「それは本当?」
「さて、そういう笹倉さんは?」
「どうかしらね?」
本音のわからぬペテン師同士、ジャズをバックグラウンドミュージックに見つめあう。
暫くして「付き合いましょうか」と切り出したのはどちらだったか。
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やまうみ。 - 山さん» ありがとうございます!許可とらなくても良いんですか...?やっちゃいますよ...?山様も、僕の作品で書きたいものがあればどうぞどうぞ(無いと思うけど) 注意書しておきます、ありがとうございます!これからも続く限りずっと応援と尊敬と敬愛を忘れません! (2019年10月22日 10時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
山(プロフ) - やまうみ。さん» 全然大丈夫ですよ、寧ろ許可なんて貰わなくてもどんどんインスパイアして貰えば…… 注意して欲しいこと……は、そうですね。万が一読者様に『パクりなんですか?』と聞かれたら事情説明がややこしそうな気も……その作品の中で注意書きは書いた方がいいですかね? (2019年10月22日 9時) (レス) id: c5ddeb2343 (このIDを非表示/違反報告)
山(プロフ) - echoeighter8さん» 了解しました!他の作品も急ぎ足で書きますのでお楽しみに…… (2019年10月22日 9時) (レス) id: c5ddeb2343 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 「時間制限賃貸彼氏」という作品をお相手と所々を改変して書かせていただいてもよろしいでしょうか。いや、ダメだったら全然断っても良いんです!この間のは拒否権がない感じになってしまったので。良いかダメか、注意してほしいことなど教えてください! (2019年10月22日 8時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
echoeighter8(プロフ) - 山さん» 続編書いていただけるなら全然待ちます! (2019年10月21日 13時) (レス) id: a38f594748 (このIDを非表示/違反報告)
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