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「はじめまして、中池です」
「山本です」
中池さんにつられて敬語を使えば、どこかそれがおかしくって、二人顔を合わせて忍び笑いをする。
日本語教師として在日外国人に日本語を教えているという中池さん、国立大学出らしく、かなり教養がある方だ。
雑学なんかを話せば、興味ありげに毎度違う返しをしてくれるから、此方もつい嬉しくって話を弾ませてしまう。
酒を片手に、二人だけの世界を構築する。
「……ちょっと失礼なこと良い?」
「どうぞ」
「なんで中池さんは今日来たの?」
そう僕が問うと、彼女の肩がピクリと跳ねる。
それでも僕を捉え続ける瞳には若干の揺れが見てとれる。
これは質問を間違えたか、と後悔しながらも、僕は好奇心に打ち勝てずに答えを待つ。
お互いみつめあうだけの沈黙、先にそれを破ったのは中池さんのため息だった。
「理由を伺っても?」
「疲れたっていうのに肯定してたから」
「……ちょっと、長くなりますけど」
前置きを置いてくるということは、話すことに少し躊躇があることだろうか。
静かに、あくまでも彼女からの話し始めを待つ。
「実は、私には彼氏が居るんです」
驚愕、と共に出そうになった叫び声をぐっと飲み込む。
彼氏が居るのか……こんなに素敵な人だもんな。
彼女が誰か他の男の隣を歩いている姿、その淑やかな笑顔を相手に向ける姿……容易に想像が出来る。
でも、彼氏持ちなら何故合コンなんかに。
「とっても素敵な人だったんです。紳士的で、とても聡明な人なんです。ただ……最近、彼の浮気が発覚して」
「ってことは別れたの?」
「いえ、彼には私が気づいていることは言ってません」
その彼氏とやらはどんな人間なんだろうか。
近くにこんなに素敵な女性を置いておきながら、裏ではまた誰かと交際している……まぁ誠実とはかけ離れているのは確実だろう。
「だからちょっと、気晴らしに合コンへ来てみちゃいました」
「……その彼氏って馬鹿なんだね。こんな可愛い人を放っておくなんて」
机の上で組まれた、ガラス細工のような中池さんの両手に、そっと自分の黒いゴツゴツの手を重ねる。
「此方も仕返してやろうよ、中池さん?」
「それは、妙案ですね」
二人して悪い笑み、それは了承ってことで。
この煩い会場を抜けて、君と逃避行なんて洒落てて素敵だな。
きっと、これから修羅場を潜らなきゃいけないんだろうけど。
君が手に入るなら、何でもいいか。
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杠-ゆずりは-@発狂同盟 - 山さん» あっ、迷走してらしてるんですね…私は、最後にきっぱり片付ける文(???)というものが好きでして…w特にfkrさんの誘拐(?)の話みたいな終わりかたが好きなんです〜あっ、ご丁寧にどうも…此方こそお世話になります(?) (2019年10月8日 21時) (レス) id: 550abac7bf (このIDを非表示/違反報告)
山(プロフ) - 杠-ゆずりは-@発狂同盟さん» 了解しました。とても素敵なシチュ……おみそれしました(謎) 個人的に完結方法に迷走する中、そう言って頂けると大変自信に繋がります。どうぞ続編でもご贔屓に(??) (2019年10月8日 21時) (レス) id: c5ddeb2343 (このIDを非表示/違反報告)
杠-ゆずりは-@発狂同盟 - 山さん» いや、まぁ…全部好きです((((尊いことに変わりはないのでおっけーです(((り、リクエスト…!私はkwkmさんが大好きなので、夢主ちゃんが振られたあとに慰めて付き合う…的な…?(語彙力なくてすみません)のがみたいです!検討していただけたら幸いです…! (2019年10月8日 21時) (レス) id: 550abac7bf (このIDを非表示/違反報告)
山(プロフ) - やまうみ。さん» 了解致しました。区切り上続編でのご提供となりますのでご了承下さい。 (2019年10月7日 21時) (レス) id: c5ddeb2343 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 先程はありがとうございました(土下座) 浅紅に嵌まれ大好きです。山様のガチ勢ですのでリクエストします(?) どこか儚く消え行きそうな夢主ちゃんをymmtさんが好きになるお話が見たいです。エンドは恋に落ちるところでも結ばれるところでも。シチュはお任せします。 (2019年10月7日 21時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
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