6 ページ8
「あれ、今のって勘右衛門?」
「久々知君…どうしたの?傘も持たないで…」
「た、単に通り過ぎただけ。」
…なんとなく、彼が嘘をついているような気がする事だけはわかった。
「塩野さんもなんで病院に?風邪でも患ったの?」
「…えぇ、少しね。それでお薬をもらってきたのよ。」
「本当は?」
「え?」
近くのコンクリートの壁に背中を打ち付ける。
恐る恐る目を開けるとそこには兵助君の顔があった。
「本当の事、言ったらどう?」
「…あなたは悪くないもの。言う必要はきっとない…ごめんね。」
静かに目を閉じた。尾浜君がくれた傘が地面に寝転がり、音を立てる。
パラパラ、と砂のように雨が肩に降りかかる。静かに、けれど確実に服を濡らしていく。
「…ハンカチ、使って。」
静かに彼の香りが漂うハンカチで水を払いのける。
「…これは、ラベンダーの香り?」
彼は何も答えなかった。ただ、何かを訴えるような真っ直ぐな瞳で___私を見つめた。
思わずほんの少し目線を逸らす。
「私は、もう貴方に辛い思いをさせたくない」
薄々気づいていた。…彼が、私の病気についても。竹谷への気持ちも、私への気持ちも。
「だから、私は見えない方がいいのね?」
ふっ、と一瞬世界が暗転した。ギュ、と胸の中に熱が籠った。
どうして自分から、傷つきに行こうとするの?
「お願いだから、生きようとしてよ。」
言葉が出なかった。…でも、それでも。私の精一杯の返事として、彼の背中に手を置いた。
今の私には。それしかできなかったから…
「何で、私なんかのためにそんなに必死になるの。」
彼の抱きしめる力が、余計に強くなった。
そんなに必死になる必要が?確かに私はそう聞いた。
「君だから必死になれるんだよ。」
今までの無愛想だった彼が発してきていた言葉の中で、一番優しい声色だった。
「……久々知君、戻ろう。今からなら、放課後も間に合う。」
久々知君はバサッ、と傘に張り付いていた水分を飛ばして私の腕を掴んだ。
精一杯の笑顔を作って、彼と一緒に並んで歩く。
………静かにサイレンの音が響いた。
_________
占いツクールって案外1話ごとの文字数少なくてビビってます。余裕で2,000文字超えてしまったりするのですがお話の限りを考えるのも楽しみの一つになりました。
それと文字数ギリギリまで書いてると十数話で終わりそうですねこの作品。千文字くらいなら20話くらいいくんでしょうけど…
ラッキー方角
西 - この方角に福があるはずです
ラッキー食べ物
すし
6人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
May - 続きがとても気になります、、、!!!!!!!!! (2022年1月28日 21時) (レス) @page1 id: a474d6d957 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆきの | 作成日時:2019年4月30日 23時