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08:シオン ページ9

▽Furuya


夏にしては冷たい風が頬を撫でる。

私服に着替えにいった部下を待ち続けること約三十分。

そろそろ遅いと文句を言いに行こうとした時、静かな空間にコツ…とヒールの音が響いた。


「お待たせ、しました」


息を切らして駐車場に駆けてきたその姿を見て目を見開いた。

堅いスーツ姿から一変、編み込まれた髪と如何にも男ウケしそうなふわっとしたワンピース。

合コンを意識したのか、普段の私服でも見たことがないような女の子らしい格好だった。


「可愛いな…」

「はい?!」


だから、思わずそう言ってしまったのは自分でも無意識で。
はっとして口を塞いでももう遅い。

目の前の部下は顔を赤くして狼狽えていた。


ぱちぱちと目を瞬かせて吹き出した。

それを見たらさっきの言動への恥ずかしさなんて消えてしまう。


「なんで笑うの?!」

「いや、可愛いなぁって」

「じゃあ笑わないでよ!!」


自然と敬語が外れて、少し昔に戻ったように感じる。それがやけに嬉しくて。

「今日はAって呼ぶからな」

調子づいてそんなことを言ってみると、嫌がることも無くただ視線を逸らされた。


「ちゃんは?」

「付けないに決まってるだろ?!いつの話だよ…」

「……そっか、降谷さんと会ったのはもう何年も前か」


昔を懐かしむようにAが星空を見上げる。

まだお互いのことすら理解していなかったけれど、一番楽しかった頃の記憶は全て塗り潰されて。

ヒールを鳴らして数歩先に進んだAが、街灯に照らされながら振り返る。


「…じゃあ、今日は透くんって呼ぶね」


それを聞いて、わかっていたはずなのにちくりと胸が痛んだ。

僕は降谷零としてAの隣には並べない。


『嘘つき』
それは、あの日からもうわかっていたはずで。


時がどれだけ経っても関係が変わらないなんてことは有り得ないのだと。

何時までも続くものなんてないのだと。


今日の星は何処か寂しげに見えた。

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壟薇 - 続き楽しみにしてます!!!! (2019年9月1日 3時) (レス) id: ba5f7bf38b (このIDを非表示/違反報告)
haruno(プロフ) - 明里香さん» ご報告ありがとうございます…!すぐに修正させていただきます! (2019年7月28日 0時) (レス) id: ca8568045c (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 11話に名前変換出来ていない箇所がありました。 (2019年7月28日 0時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
haruno(プロフ) - ゆりんさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けて光栄です…!今後も楽しんで頂けるよう頑張りますね! (2019年7月20日 19時) (レス) id: ca8568045c (このIDを非表示/違反報告)
ゆりん - 面白いです!更新頑張ってください!! (2019年7月20日 13時) (レス) id: aa34414ff5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:haruno | 作者ホームページ:   
作成日時:2019年7月10日 1時

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