ナイトクルージング・・ Kei ＊ Ryosuke ・・

night 24 ページ31

だけどその時、




決して頼り甲斐があるとは言えない細身の腕が、倒れかかった私の体をきゅ、と支えた。





慧「大丈夫、そのままでいて」





耳元で私にしか聞こえないくらいの低い囁き。





次の瞬間、






A「え…！」





聞こえてきたのは、会場が割れんばかりの、女の子たちの黄色い歓声。



気が付いたら、伊野尾さんが私の体をひょい、と持ち上げていた。ステージのど真ん中でお姫様抱っこ。

彼はそのまま予定通りの位置まで何歩か歩いて、そっと私を降ろすと、




私の前にひざまずいて左手を取った。







これから、何を…？






完全にリハの流れは断ち切られて、頭は真っ白になったまま、彼の目を見つめる。
彼はくす、と笑って、その唇を私の手の甲に押しあてた。





会場はもう、女の子たちの悲鳴のような歓声に包まれて、揺れているかのよう。




思いもよらない展開に、自分の頬が熱くなっていく。






そんな私とは対照的に、彼は余裕のある笑顔のままで、ポケットから小箱を取り出して、


小さな光る石のついたリングが、私の左手の薬指にはめられた。





慧「お、サイズピッタリ」








どきん、と大きく胸の音がした。





.






今、ドキドキしているのは、




ステージ上で起こったアクシデントのせいであって、



目の前にいる王子様みたいなこの人に対してドキドキしているわけでは、




決してない、はず。





.






どんなに言い聞かせても、鳴り止まない鼓動の音。







彼の手に指を絡ませて、まるでバージンロードを歩くみたいに、



大歓声に包まれながら、最後のステージを歩ききった。

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