#88 (12/11) ページ42
.
久しぶりに足を踏み入れた女子寮の私の部屋は、思ったより何も変わっていなかった。
A「ただいま、」
机の上に置いたままになっていた平成祭のフライヤーを手に取って、込み上げてくる懐かしさに思わず笑う。
もう何年も前の出来事みたいだ…
.
キャリーケースを置いて、窓を開ける。
向こうに見える大きな公園は、夜桜目当ての花見客が増えてきたみたいで賑やか。
少し空気を入れ替えたくて、窓を開け放したままで部屋を出た。
.
光、あとちょっとって言ってたけど何時くらいまでいられるのかな、
慧は何してるんだろう…バイトかな。
ぼんやりとそんなことを考えながら、寮から一歩、足を踏み出した時に気が付いた。
A「…!」
男子寮と女子寮の間のベンチ。
点いたばかりの街灯が、ぼんやりと辺りを照らしている。
そこに座って、夜空にふわふわと浮かぶように咲いた、満開の桜を見ている人。
A「慧…?」
桜から、ゆっくりこちらに視線を移して来た彼と、
目と目が合った瞬間、胸の奥でとくんと聞こえた鼓動の音。
止まっていた時間がゆっくりと、動き出す気配がした…
.
その瞬間、瞬きをした彼の瞳が僅かに揺れた。
実際にはほんの数秒、なのにとてもとても長く感じたその間。
.
A「っ、久しぶり…!元気だった…?」
沈黙に耐えかねて思わずそう言った。
慧は何も言わず、すっと立ち上がってこちらに歩いて来る。
そんな彼の態度に、どうしたら良いか分からくて、飛び跳ねる心臓
A「あ、この後時間ある?光がね、アトリエに」
無言で歩いて来た彼は、「光」の名前を出した途端ぴく、と肩を揺らして、
A「いるから、この後…、え…!」
おもむろにぱしん、と掴まれた右手。
A「慧…?」
彼は私の手をしっかりと握ったまま、アトリエとは反対の方向…
花見客で賑わう公園の方へ歩き出した。
920人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
とまと(プロフ) - 深夜に一気読みで号泣でした、、こんなステキな作品に出会えたこと、とても嬉しいです!、これからも応援してます、頑張ってください!! (2019年12月31日 2時) (レス) id: e7e27b9562 (このIDを非表示/違反報告)
Nana - いつもドキドキしながら読んでます!最近更新の頻度が高くて嬉しいです!すれ違いってせつないですね、、彼女さんもいい子みたいだし登場人物が皆いい人なので皆に幸せになってもらいたいです続きも楽しみに待ってます! (2019年11月17日 0時) (レス) id: 2ec27d7b3e (このIDを非表示/違反報告)
sayo(プロフ) - 切なくて切なくて、先が気になって仕方ありません。毎回、おもしろ度を最高につけたいのに既に投稿済みで無効になってしまうやるせなさ…ついにコメントまでしてしまいました。更新、楽しみにしています。 (2019年11月12日 19時) (レス) id: 8f2791b52a (このIDを非表示/違反報告)
まひろ(プロフ) - 100票目をいただきました!すぐ駆けつけられなくてごめん( ; ; )ちゃみちゃんの書く伊野尾くんは柔らかくて可愛くて大好きー!楽しみにしてます(*^▽^*) (2019年10月31日 20時) (レス) id: 135a6c956f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ちゃみ | 作成日時:2019年10月26日 23時