＊ ページ16
その図書館に来るのは、確かこの街に引っ越したばかりの時、何かの用事があってついでにとカードを作った時以来だった。
その時もなんだか慌ただしくて、ゆっくりと本なんか眺める余裕がなかったな。
.
少し古いその建物は、あちこちに年数を感じさせるちょっとした傷や綻びがあったけれど、
掃除が行き届いていて清潔で、大きな窓からさんさんと光が降り注ぐとても心地の良い空間だった。
窓の向こうは公園になっていて、夏の光を受けて木々の緑色が鮮やかに映える。
A「…いいところだね」
慧「いいよね」
ひそひそ声で話しながら手を繋いだまま館内を進んでいく。
新聞を読んでいるおじいちゃんや、勉強をしている学生、絵本を選ぶ親子連れがぽつりぽつりといるけれど、人影はまばら。
ふと、児童書の棚に見えた背表紙にぴん！と反応して立ち止まった。
A「あ…！この本、」
それは確か私が小学生の頃、夢中で読んでいたシリーズだった。やたらと何かに困りがちな主人公のお花屋さんが、お料理を作っていくストーリー。
思わずその一冊を手に取った。
A「懐かしい…！何回も読んでた…！」
ちょっと見てもいい？の意味で振り返ると、慧はそんな私を見てニコニコしながら頷いた。
夢中でページをめくる。
色鉛筆の素朴なタッチで描かれたおいしそうな挿絵も、意外と本格的に書いてある料理の手順も、
全部こんなにも懐かしいのに、今の今まで忘れていた。
A「そうだ、私ね子どもの頃ね、この本見ながらお料理作ったんだ！夏休み、に…」
思い出そうとしたその瞬間、突然ツキンとこめかみの辺りが痛んで、よろけた。
慧「っと、大丈夫？」
咄嗟に彼が肩を支えてくれた。
意外と深いところがズキズキするような痛みで、戸惑う。
A「ん…なんだろ、偏頭痛かな、」
慧「座ろっか」
A「うん」
彼に促されて、近くの空いている席に座る。こめかみの痛みはすぐに引いた。
A「あ、治った」
慧「疲れてるんじゃない」
A「誰かさんのせいで寝不足だからね」
慧「げ、そうかも。ごめんね？」
くすくすと軽口を叩く私に、彼はほっとしたように笑った。俺も本選んで来る〜と本棚の方にすたすたと歩いていく。
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ひな(プロフ) - ちゃみさん初めまして。一昨日ちゃみさんの作品に出逢い、面白くてハマって全作品一気読みしました！これからも楽しみにしてます。 (2018年9月23日 22時) (
レス) id: 800dd62f43 (このIDを非表示/違反報告)
ぶどう(プロフ) - このお話にとても感情移入してしまい慧くんとの別れに涙が出て止まりませんでした。私が本当に主人公ちゃんになったかのように悲しくて、寂しくて、こんなにお話に感情を揺さぶられたのは初めてで自分でもびっくりしました。人を号泣させられる作者さん、尊敬してます！ (2018年9月22日 23時) (レス) id: 548f1d5b70 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずごしょう(プロフ) - 移行おめでとうございます！慧くんとの別れが余りにも悲しくて、泣いてしまいました。また慧くんと会えるのか、楽しみです！ (2018年9月15日 0時) (レス) id: 5f95aa5fdf (このIDを非表示/違反報告)
不眠症の羊(プロフ) - 移行おめでとうございます。ご無沙汰羊です。ああ、うちの玄関前にも伊野尾さん来てくれないかしら…。と妄想しつつ、続きを楽しみに待ってます。追伸、ボードの方に例のURL貼っときました。よろしければ使ってみてください。 (2018年8月25日 13時) (レス) id: 5d3f6da0fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちゃみ
| 作成日時：2018年8月20日 15時
