世界で一番、近くて遠い。・・Kei・・

＊ ページ24

慧「へへ、」


A「…何」


慧「ん〜、別に？あ、それ持つよ」




彼は私の手から、今まさに買ったばかりのショッパーをひらりと奪う。

…彼が選んだ小花柄のブラウス入りの。





A「いいよ、重いもんじゃないし、」


慧「いいの。こういう時は俺が持つの」


A「そうなの？」


慧「デートってそういうもんでしょ？」





…そうかな？そっか…、


じゃなくて！




慧「ねぇ、次のデートはこれ着てね？」


A「違…、こういうの持ってないからたまにはいいかなぁって！」


慧「んー？」


A「…もういい。」




ぷい、と顔を背けて歩き出した私の後ろを、ぱたぱたとのんびりした足音が追いかけてくる。


こういう時、モテる女の子はもうちょっと素直に振舞ったりするんだろうなぁ。


全然可愛くない態度の私を、慧は変わらず穏やかな笑顔で見つめている。






A「…今日はね！慧のもの買いに来たの！」


慧「ふは、そうだね」


A「とりあえず着替え買わないと、」


慧「あ、A」





振り返って話をしていたから、あまり前の方を見ていなくて。
慧の手が私の片手に伸びて、ぱしんと掴んだ。


正面に向き直ったら、目の前にベビーカーを押す若いお母さん。





A「わ、すみません」


「いいえ」





ぶつかる寸前で止まって良かった。

ニコニコと会釈をしてくれたお母さんが押すベビーカーの中から、
色白の赤ちゃんが黒目がちな瞳でこちらをじっと見ている。




慧「わー、可愛いねぇ」


A「ね、」




思わず頰が緩んで、通り過ぎていくベビーカーを見送った。






A「どこのお店が良いとかあるの？」


慧「えぇ？なんでもいーよ、安いやつにしよ？」


A「うーん、じゃぁあっちかな…」








とりあえず大手のファストファッションのお店を目指して、歩き始めた。

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