世界で一番、近くて遠い。・・Kei・・

＊ ページ14

一瞬、何が起きたのか分からなかった。


慧がぽかんとこちらを見つめている。





…考えるより先に、言葉が出た。

それも、自分でもびっくりするくらいの勢いで。




A「あ、違う…！今のはなんか、口が勝手に、」




しどろもどろに言い訳をするも、もはやそれは無意味に等しく、

目の前の色白イケメンの表情は、みるみるうちにほころんでいく。




慧「やったぁ！じゃぁ決まり〜！」





ケラケラと嬉しそうに笑う彼を見ていたら、なんだか再び脱力が襲ってきた。





慧「大丈夫、俺Aを襲ったりしないし、夜もここで寝る！いいでしょ、ね？」



ソファの上、クッションを抱っこした慧がほっぺをまんまるにして笑った。




A「…ほんとに1ヶ月だけですよね」


慧「うん。1ヶ月過ぎると、行かないといけないし」


A「どこに！？」


慧「うーんそれは、内緒」




いやいや、それって帰るところあるじゃないですか。
他にも突っ込みたいことは山のようにあった。




慧「ふぁ…ねっむ、」




見ず知らずの男の人、しかも無職で一文無しで、
側から見たら怪しすぎるこの状況。




A「1ヶ月ね…。約束だよ…？」


慧「うん…大丈夫だよ、ほんと、1ヶ月だけ、だから…」




言いながらクッションを枕にしてソファに寝転んだ彼は、そのまま目を閉じて動かなくなった。




A「え！寝たの！」




この状況で！

思わず大きな声が出てしまったけれど、閉じてしまった彼の瞼はびくともしない。



なんだかどっと疲れてしまった。私も眠い。ため息をついて、その肩にそっとブランケットをかけた。



.



電気を消して潜り込んだベッドの中で、何度目かの寝返りを打ってため息をついた。
頭の中でさっきのやり取りを思い出す。



彼が、もう二度と私の前には現れない、と言った瞬間、本当に、考えるより先に体が反応してしまった。
そんなことだけは絶対に嫌だ、と思ってしまったんだ。





…どうしてなんだろう…。




いくら考えても、やっぱり慧のことを思い出すことはできなかった。




ぐるぐる考えているうちに、少しずつ重たくなってくる瞼。






見ず知らずの男の人がすぐそこで寝てるっていうのに、私は無防備だなぁ。
これで明日の朝起きたら、金品を全て奪われていたりして。


…それでもいっか。



今夜、久しぶりに寂しくない時間を過ごせたんだから。





うとうととそんなことを考えながら、気が付いたら眠りに落ちていた。

Chapter 2 "泡沫のような"→←＊

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