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41話 ページ42

「何の話だよ…?」

「あまちゃん?」

「っ、」

レイリはただただ黙って頭を垂れていた。
前に立っていた3人も、
話を聞いていた残りも、勿論天月も。
何の話だと眉根を寄せている。

シロはそれを見て大きくため息をついた。

基地のすぐ側にテントを張って見ていたので
(何かあったらレイリを引き揚げるため)
1分もかからずに基地内に入れる。

「説明が下手にも程があんですけど」

「シロ!!!」

呼び方は多少ズレるが、
天月以外の人間が揃って彼女の名前を呼んだ。

「天月さん。
許さなくていい。好きにならなくていい。
何もしなくていいですから、
真相だけ知っていてください。」

シロは視線を天月に投げて口を開く。

「南方の戦場に送られるはずだったあなたは、
日中に異能を使って攻撃する術を持たない。
それは非難されることでも
蔑まれることでもないです。
でも南方には合わなかった。
上層部はあなたを人間爆弾にする心算でした。」

「っ?!」

鋭角では聞かないであろう、
凡そ人間の倫理観念をぶち壊す単語に
みんなが目を剥く。
シロは少し眉根を寄せて続けた。

「レイリはあなたを守りたかった。
夜は無敵のあなたには、
南方じゃないどこかで、
その能力を活かして戦って欲しかった。
結果は上手くいかなかった。
方法も褒められたものじゃない。
だから許さなくていい。
でもあなたは、
誰にも認められない兵士じゃないんです」

シロはどうか、
もう自分を卑下するのはやめてください
と腰を折った。
レイリも倣って頭をもう一度地につける。
端的にではあるが何となく察した面々は、
なんとも言えない顔で天月を見ていた。
天月は床を見つめたまま、
数分動かなかった。




「…俺、は、
兵士になった、のは、もう行くとこが
なかったからで」

静寂を破ったのは、
涙混じりの震えた声音。
レイリの前では僕と名乗る一人称は、
俺に一新されていた。

「自分にも、どっか、居場所があるのかなって、
そんなふうに、思ってたんです。
そ、れが、生きてる価値がどこにもないみたいな
あんなに風に、言われて、もう
ほんとになんのために息してるのかなって」

ゆらりと頭が上がる。
その双眸には、怒りの色はなかった。

「酷いです。
辛かったし苦しかったししんどかったし、
もう辞めたかったけどどこにも行けなくて。
逃げ出したくても逃げられないし、
だれも手を伸べてはくれなくて。
…でも、シロちゃんの言ったことが本当なら
俺は、守られてたんですね…」

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煮凝り - れもんさん» あ゛っ…!読み返してまで…ありがとうございます更新頑張りますね!! (2020年9月11日 22時) (レス) id: 070d398b9c (このIDを非表示/違反報告)
れもん(プロフ) - 煮凝りさん» 全然いいなのです〜!!今日また見返してほっこりしてますw!! (2020年9月11日 19時) (レス) id: e9c3d8ad5a (このIDを非表示/違反報告)
煮凝り - れもんさん» 返信遅くなってすみません…!ほっこりしていただけたなら嬉しい限りです!! (2020年9月10日 17時) (レス) id: 070d398b9c (このIDを非表示/違反報告)
れもん(プロフ) - やああああ、いい仲間〜!!心温まる〜!!! (2020年9月4日 20時) (レス) id: e9c3d8ad5a (このIDを非表示/違反報告)
煮凝り - ささささん» わぁぁ嬉しいです……!!頑張りますね!! (2020年9月3日 19時) (レス) id: d8b345149a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:目に煮凝りができた | 作成日時:2019年12月23日 14時

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