31話 ページ32
コンコン
「シロです」
天月の部屋の前にたってノックする。
「………………」
返事はなかった。
コンコン、「天月さん?」
サイドノックして名前を呼ぶが、
変わらず返事はなかった。
「……開けますよ?」
ガチャ、とノブを回せば、
鍵はかかっていなかった。
「失礼します。」
シロが部屋に入ってみたのは、
布団にくるまり、体操座りする天月の姿。
「……天月さん?」
声をかけるも反応はない。
心配になってシロは思わずその肩に触れる。
瞬間。
ぱっ!と
ばね仕掛けのおもちゃのように
天月が飛び上がった。
その双眸は既に涙をたたえ、
瞳孔は開き、顔色は真っ青。
「ごめんなさいごめんなさい!!」
シロの姿を目にとらえた瞬間、
頭をたれて叫ぶ。
「っ?!天月さん!落ち着いて!
大丈夫、なんにもしませんから!!」
はぁっ、は、ぜぇ、
と過呼吸気味に息する彼の背中を、
シロは慌てて撫でる。
「落ち着いて……大丈夫、なんにもしません」
「はぁっ、はぁ、は、ぁっ、」
少しの間そうしていた。
だいぶ息も整い、
天月の顔色も戻ってきた。
「……大丈夫ですか?」
シロはそれを見て声をかける。
「ぁ……っ、大丈夫、です」
目線を合わせず、
小さな声で天月が答えた。
「……レイリさんと何かあったんですか?」
「っ!!!!」
レイリ。
その単語で
彼の双眸にもう一度透明な膜が張っていく。
「れ、いり、さ……」
「落ち着いて。
大丈夫、レイリはいません。
私も、レイリの仲間じゃありません。
……彼に…なにかされたんですか?」
シロは、
生まれて初めて最大限に脳みそを使い、
できるだけ
天月の負担にならないような言葉を選んでいく。
「……ぼく、は。
使えないやつなんだ。
どうせなんにも出来ない雑魚なんだ。
そうだ、戦闘で何の役にも立たない。
いるだけのお荷物。
足を引っ張るだけ。
邪魔者。ぼくは、ぼくは……!!」
ボロボロ、と涙がこぼれていく。
シロはそれを見て僅かに目を見開いて。
そうしてバレないように静かに深呼吸した。
「……そう、言われたんですか?」
そして核心をつこうと言葉を紡ぐ。
「……っ、ぼくは、要らないって…!
夜だけなんて何の役にも立たない能力者が、
こんなとこに居たら全員の迷惑だって。
軍部の、恥さらしなんだから、
いない方がマシだって……!!」
とめどなくこぼれる涙は、
シロの服を水浸しにしていた。
129人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
煮凝り - れもんさん» あ゛っ…!読み返してまで…ありがとうございます更新頑張りますね!! (2020年9月11日 22時) (レス) id: 070d398b9c (このIDを非表示/違反報告)
れもん(プロフ) - 煮凝りさん» 全然いいなのです〜!!今日また見返してほっこりしてますw!! (2020年9月11日 19時) (レス) id: e9c3d8ad5a (このIDを非表示/違反報告)
煮凝り - れもんさん» 返信遅くなってすみません…!ほっこりしていただけたなら嬉しい限りです!! (2020年9月10日 17時) (レス) id: 070d398b9c (このIDを非表示/違反報告)
れもん(プロフ) - やああああ、いい仲間〜!!心温まる〜!!! (2020年9月4日 20時) (レス) id: e9c3d8ad5a (このIDを非表示/違反報告)
煮凝り - ささささん» わぁぁ嬉しいです……!!頑張りますね!! (2020年9月3日 19時) (レス) id: d8b345149a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:目に煮凝りができた | 作成日時:2019年12月23日 14時