10.離れよう。 ページ35
何も思いつかない使えない脳には最初から期待はしていないので、私は珍しく休みの日に外へ出た。まぁ気分転換である。
寝違えた首が少々痛むが、これしきの痛みを我慢できないほど子供じゃない。何もない普通の人のように振る舞いながら、私は人混みへと紛れる。だけどショッピングモールに来るとやはり人が多くて、人混みが苦手な私には少しきつかった。
それに知り合いに会うかもしれないし……。
いやでも同級生に会っても問題はない格好にしてきたから、知り合いに関しては大丈夫か。黒のロングスカートと、適当に着た同色のパーカーというなんとも言えないスタイル。メイクもしなければアクセサリーも付けない女子力のない私だが、そもそも似合うような顔ではないのでそれに関しては許してほしい。
私と同じ歳の女の子たちはほおんどが学校に化粧してきているというのは分かっているのだが、やはり似合わないと分かっていると手を出しにくい。
化粧して好きな人に好きになって貰える訳でもないのに、無駄に努力をするのも哀れな気がしてならないからっていうのもあるけれど。
そんな事を考えながら可愛らしい女の子達が立ち寄り、これが可愛いあれが可愛いとはしゃいでいるコスメショップを素通りした。
すると突然「あれ、佐伯さん?」と誰かの呟くような、少しキョトンとしたような声が聞こえた。
それは、随分と可愛らしい女の子の声だった。だけど、この近くに特に親しい知り合いもいないので佐伯という名字の自分ではない誰かだろうと判断し、私は聞こえなかったフリをして通り過ぎようとした。
「っ、あ!やっぱり佐伯さんだ!」
しかし、何故か手首を掴まれて後ろをほぼ強制的に振り向かされる。
混乱しながらも振り返れば、そこにいたのは赤いリップの似合う可愛らしい女の子だった。一瞬誰かと思ったが彼女の顔を数秒眺めた結果とある人物が頭に思い浮かぶ。
「あ、藍原さん……?」
「そうだよ〜!ていうか、佐伯さんもこういう所来るんだね!」
「あ、うん、たまに。本買いに来るだけだけど」
「そうなんだ〜!あ、そうだ!佐伯さんこの後時間ある?遊ばない?」
なんだこのコミュ力の塊みたいな人は、と若干押されていた私はつい最後の発言を見逃してしまいそうになった。
しかし、彼女の言葉を脳内で何度も再生し、次の瞬間理解する。口からは「……え?」と数秒遅れた間抜けな声が出てしまった。
なのに、目の前の彼女はのほほんとしていて楽しそうに笑んでいるだけだった。
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白雨(プロフ) - mさん» ごめんなさい気づかなくて返信遅れました(汗) 以前からの読者でしたか……!いつもお世話になっております◎ ありがとうございます〜!今度は最後まできっちり完結させるつもりですので、更新はゆっくりかと思いますがお付き合いいただけると嬉しいです(*´˘`*) (2月12日 0時) (レス) id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
m(プロフ) - コメント失礼します。以前からこの作品が好きで何度も読み返していたので再掲してくれて本当に嬉しいです!ありがとうございます。無理のないペースで頑張ってください。更新楽しみに待ってます🫶🏻 (1月11日 2時) (レス) id: ae0456fc9b (このIDを非表示/違反報告)
李 雨月(プロフ) - 貴月さん» 以前の読者さまがいらっしゃったとは、びっくりしました……!その言葉を聞くことが出来て、また書き始めてよかったなと思えました。今度こそ必ず完結させます。また見つけてくださって本当にありがとうございました! (6月23日 21時) (レス) id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
貴月(プロフ) - コメント失礼します。以前からすごく大好きな作品だったので、またこの作品を読むことが出来て本当に嬉しいです!更新楽しみにしています…! (6月21日 16時) (レス) id: 76caf5b15a (このIDを非表示/違反報告)
李 雨月(プロフ) - yumeさん» コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいです!後々、セさんの行動の意味や心情も分かるようになってきますので是非今後ともお付き合いください◎ (6月21日 11時) (レス) id: 8fe15b8549 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白雨 | 作者ホームページ:疑心暗鬼の中で芽生える執愛。
作成日時:2023年6月8日 21時