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「なぁA、Aってセンラと付き合ってへんねやろ?」
「へっ?……ぁ、うん」
「ならさ、俺と付き合わん?」
逃げられない状況の中でそんな事を言われた私は体を硬直させた。一瞬言葉の理解が遅れて、思考が停止しかける。
付き、合う……?
スっと私の上から退いた坂田くんがベッド周りのカーテンをシャッと閉じた音がして、一瞬にしてその場は密室となった。
視界が少しだけ暗くなって、何だか雰囲気が一気に変わった気がした。怖くなった私は、上半身を起こして無理やり声色を明るくして彼に言葉をかける。
「さ、坂田くん……?からかうだけなら、やめてよ」
「からかってないよ?」
にこにこといつものように笑顔を絶やさない彼を見て、何故か背中に悪寒のようなものが走った。
……また、この目だ。
センラくんと同じ、瞳の奥が濁ったなにかを企んでる時の顔。笑ってるのに表情が読み取れないから、私はこの顔が苦手だ。
「A、キスしよーや」
「な、に言って」
「センラとはしとったのに、俺とはできへんの?付きおーてないんやろ?」
え、と乾いたような自分でも驚く程にカラカラの声が出た。
キスを、見られてた……?坂田くんに……?
い……嫌だ、嫌われたくない。軽い女だって軽蔑されたくない……突き放されたくない……!!
「ふふ、ごめんなぁ、俺そんな優しないねん。昨日がっつり舌まで入れてるとこ目撃しちゃってさぁ」
その言葉で悟った。
あの時、見られてたんだ。昨日の帰り、センラくんが場所も考えずに靴箱の前なんかであんな事するからこんな事になったんだ。
センラくんは最初から協力なんて1ミリもする気なんてないくせに私に夢だけ見せて、でもそれに少しでも可能性を感じてしまった、彼の言葉に頷いてしまった私はただの馬鹿だったんだ。
あんなの、悪魔じゃないか。
「だから俺ともキスしよ、A。な、大人のキス、教えてあげる」
そう言って目を細めながら舌舐めずりをして見せた坂田くんに再び覆い被さられて、力の入らない緩んだ口元に舌をねじ込まれる。ザラりとした感触が唇に触れて、自分とは違う生温いものに舌が絡め取られた。
坂田くんと唇を合わせる事のできた喜びよりも、この行為に恋愛感情がないという事実を確信してしまった私は絶望したように落ち込んだ気持ちの方が大きかった。
きっと、遊びのつもりだ、坂田くんも。
私のことが好きとか、そんな訳でもないのに面白いからってこんな事してるんだ。
センラくんなんかに、従わなければよかった。変な意地を、張らなければよかった。
「(……学校、行かなきゃよかった)」
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白雨(プロフ) - mさん» ごめんなさい気づかなくて返信遅れました(汗) 以前からの読者でしたか……!いつもお世話になっております◎ ありがとうございます〜!今度は最後まできっちり完結させるつもりですので、更新はゆっくりかと思いますがお付き合いいただけると嬉しいです(*´˘`*) (2月12日 0時) (レス) id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
m(プロフ) - コメント失礼します。以前からこの作品が好きで何度も読み返していたので再掲してくれて本当に嬉しいです!ありがとうございます。無理のないペースで頑張ってください。更新楽しみに待ってます🫶🏻 (1月11日 2時) (レス) id: ae0456fc9b (このIDを非表示/違反報告)
李 雨月(プロフ) - 貴月さん» 以前の読者さまがいらっしゃったとは、びっくりしました……!その言葉を聞くことが出来て、また書き始めてよかったなと思えました。今度こそ必ず完結させます。また見つけてくださって本当にありがとうございました! (6月23日 21時) (レス) id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
貴月(プロフ) - コメント失礼します。以前からすごく大好きな作品だったので、またこの作品を読むことが出来て本当に嬉しいです!更新楽しみにしています…! (6月21日 16時) (レス) id: 76caf5b15a (このIDを非表示/違反報告)
李 雨月(プロフ) - yumeさん» コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいです!後々、セさんの行動の意味や心情も分かるようになってきますので是非今後ともお付き合いください◎ (6月21日 11時) (レス) id: 8fe15b8549 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白雨 | 作者ホームページ:疑心暗鬼の中で芽生える執愛。
作成日時:2023年6月8日 21時