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次の日の放課後、私は学校の図書室で勉強をしていた。
特にこの場所に意味はないけど、静かで人が殆ど居ない、という理由でちょっと気に入っている。あとはずっと図書委員だからこの場所には馴染みがあるからっていうのもあるけど。
本のページを捲る音とシャーペンが紙を走る音を聞きながら数学のワークの問題を解いていると、数字を間違えてしまった。頭の中で書こうとしていた字とは違う8の数字にため息を吐く。
間違えてしまった回答を消そうと消しゴムを取り、少しずつ削れて小さくなっていく消しゴムを見ておまじないの存在を思い出した私は、少しだけほっこりしたような気持ちになった。
そして何を思ったのかカバーを外して、自分の丸っこい字で書かれた坂田くんのフルネームを見て微笑んだ。
これは、この恋が叶いますように、とかそれくらいの軽い気持ちでの行為だったんだと思う。けれど今となっては後悔の念が拭いきれない行動となった。
「……へー、佐伯さんって坂田が好きなんやぁ」
その声を聞いて、サーっと血の気が引いた。
その声には聞き覚えがあったからだ。だって、この声って坂田くんの親友の……
「折原、くん……」
「あ、俺の名前も知ってるんや?」
にしても、と言って彼は続ける。
表情は楽しそうで笑っているのに、細められた目の奥にある瞳は妙に薄暗く、濁って見えた。なんだ、なんなんだこの感じ。この違和感。
「見た目と違ってわりと大胆な事するんやね、佐伯さんって」
「っ……ま、待って折原くん……!」
「なに?」
「さ、坂田くんにはこのこと黙ってて欲しいの……お願い……!」
「えー?どうしよーかなー」
「っな、なんでもするから、ほんとに……お願い……っ」
その言葉を聞くと、彼は口元に浮かべた笑みを更に深めてにこりと笑った。
綺麗な顔に浮かぶ艶のある笑みと、その奥に見え隠れする闇のような感情に背にゾクゾクとした悪寒のようなものが走る。
「ほんまに、なんでもするん?」
「い、言わないでくれるなら……」
妙に事を含んだ物言いに嫌な予感がして若干涙目で彼を見上げると、折原くんは私を引き寄せて頭を撫でてきた。図書室の端っこの方の席に居たし、他の人からはきっと見えなかったとは思うがあまりに突然の出来事に驚く。後頭部を大きな手で包み込まれるような感覚に、思わず目を見開いた。
折原くんは私の頭を撫でる手は止めずに、そっかぁ、と緩い口調で言うと、再び笑みを浮かべて「じゃあ……」と話を切り出した。
「俺の言うことは絶対、やで」
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白雨(プロフ) - mさん» ごめんなさい気づかなくて返信遅れました(汗) 以前からの読者でしたか……!いつもお世話になっております◎ ありがとうございます〜!今度は最後まできっちり完結させるつもりですので、更新はゆっくりかと思いますがお付き合いいただけると嬉しいです(*´˘`*) (2月12日 0時) (レス) id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
m(プロフ) - コメント失礼します。以前からこの作品が好きで何度も読み返していたので再掲してくれて本当に嬉しいです!ありがとうございます。無理のないペースで頑張ってください。更新楽しみに待ってます🫶🏻 (1月11日 2時) (レス) id: ae0456fc9b (このIDを非表示/違反報告)
李 雨月(プロフ) - 貴月さん» 以前の読者さまがいらっしゃったとは、びっくりしました……!その言葉を聞くことが出来て、また書き始めてよかったなと思えました。今度こそ必ず完結させます。また見つけてくださって本当にありがとうございました! (6月23日 21時) (レス) id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
貴月(プロフ) - コメント失礼します。以前からすごく大好きな作品だったので、またこの作品を読むことが出来て本当に嬉しいです!更新楽しみにしています…! (6月21日 16時) (レス) id: 76caf5b15a (このIDを非表示/違反報告)
李 雨月(プロフ) - yumeさん» コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいです!後々、セさんの行動の意味や心情も分かるようになってきますので是非今後ともお付き合いください◎ (6月21日 11時) (レス) id: 8fe15b8549 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白雨 | 作者ホームページ:疑心暗鬼の中で芽生える執愛。
作成日時:2023年6月8日 21時