・ ページ15
あれから結構な時間が経ったみたいだけど、一向にうらたくんはこの部屋に帰ってこない。
先程まで窓から見えていた太陽はすっかり登ってもう見えなくなってしまったし、これは相当時間が経っていると思う。私の予想でしかないけど、多分お昼くらいの時間帯だ。
向かい側のベッドの持ち主も分からず謎は深まるばかりで、更には頭を働かせていたせいで糖分が足りなくなってしまって気持ち悪くなってくるというダブルパンチを食らった私は、ついに立ち上がった。
もう我慢の限界だ、そう思った私はふらふらとした足取りで扉まで向かってドアノブに手を掛けた。幸いなことに鍵は掛かっていない。よし、これなら出られる。
「(……キッチンの方なら、なんかあるかな)」
部屋を出た私は、幼い頃の記憶をなんとか掘り起こしながら覚束無い足取りで木製の床の上を音を立てながら歩いた。体調不良の時のように頭痛と吐き気が凄いので、その姿はまるで病人である。
きっと今なら顔色すら悪い気がするし舌が回らないせいで上手く喋れないだろうし、もうモロ病人じゃん。
そんな風に余計なことを考えながら確かこっちに職員さん達の部屋があって、食堂がこっちだったから……と視界と自分の記憶だけを頼りに歩いていると、ふと人影が目に入る。
「……A？」
「ぁ……しま、くん……？」
「え、なんでお前がここに……って、めっちゃ顔色わるいし、なんなん。え、ちょ、倒れんなめんどくさい」
酷い言われようであるが、そんな彼も私の幼馴染みの一人だった。口ではめんどくさいなんて言いながらも、私がふらりと倒れるとすぐに駆け寄ってきてくれるんだから、志麻くんは優しい。
昔から彼はぶっきらぼうだったけど、それでも行動は底抜けに優しかった。眼鏡をしているし声も低くなっているし、身長も高くなってしまったから一瞬誰か分からなかったけれど、あの頃の面影は健在なようだ。
「はぁ……このままやと俺まで頭おかしくなりそうや」
志麻くんはため息を吐いてからなにか呟くと、私を横抱きにして持ち上げた。
昨日はこうやって持ち上げられるのが怖くて仕方なかったけれど、感覚が些か麻痺しているせいかあまり浮遊感への恐怖は感じなかった。それになんだかふわふわしているような感じがする、という方が大きい。
そのままぼーっとしながら志麻くんの方を見上げると、彼と目が合った。
「大人しくしてろ」
「うん……」
志麻くんと再会出来て良かったと思う反面、行動は優しくても自分に掛けられる言葉が以前よりも冷たくなっていて、少しだけ寂しくなった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 252人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白雨(プロフ) - カエデさん» ありがとうございます〜！私の言葉で少しでも勇気を与える事ができていたら嬉しいです。カエデさんの人生がいいものとなりますように、陰ながら祈らせていただきます🍀 コメントありがとうございました◎ (4月22日 20時) (
レス) id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
カエデ(プロフ) - 完結おめでとうございます！！私もなにかと周りの大人に色々と狂わされた10代だったので凄いぐっときました。今はまだ人生立て直しを模索中ですが、白雨さんのあとがきで勇気をもらえました！ありがとうございます！！本当にめちゃめちゃ面白かったです！！ (4月21日 23時) (レス) @page50 id: fc5654a0ec (このIDを非表示/違反報告)
白雨(プロフ) - こゆきさん» コメントありがとうございます◎ 来月くらいには完結すると思いますので是非最後までお付き合い下さいませ〜！ (1月9日 23時) (レス) @page17 id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - めっちゃ面白い！続きがすごく気になる、、、 (1月9日 14時) (レス) @page17 id: fe749953cc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白雨 | 作者ホームページ：愛故のメリーバッドエンド。
作成日時：2023年12月14日 20時
