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「…………い、おーい、A、大丈夫?」

「へっ。あ、あれ?」

「なんかぼーっとしとったけど、どうしたん?もしかしてなんか思い出したりした?」


坂田さんが何気ないような顔で聞いてきたその質問に、私は思わず肩を跳ねさせる。存在しないはずの記憶について彼がなにか知っているということに驚いたからである。

そもそも坂田さんが私のことを自分の嫁になる人だと思ってること自体おかしいと思ってたけど、私本当は坂田さんと面識があったってことなのかな。誰かと私を重ねて見てるだけかなとか思ってたんだけど違う気がする。何せあのやけに生々しい記憶が自分の妄想だとはとてもじゃないけど思えないもの。

そんなことを考えながら、私は先程頭の中を過った存在しないはずの記憶を思い出す。

こちらを熱っぽく見つめる坂田さんの熟れた柘榴のような色の宝石眼だとか、唇に触れる柔らかい感触だとか、太ももを滑る彼の手だとか、それら全てが甘美でありながらもやけに現実味を帯びていて────────


「っ〜〜!!っ、さ、坂田さんのえっち!!!」

「えぇっ?!!なんでぇ?!!」


なんだかとんでもないものを見てしまったというか、思い出してしまった気がする。

深夜にやっている恋愛ドラマでしか見た事がないような、まだ子供な私には刺激が強すぎるシチュエーション。一気に体温が上がって、体が沸騰したみたいに暑さとか色々な感情でふるふると僅かに震え出す。いたたまれないような気持ちになってしまって、私は思わず駆け出した。

私の行動は彼にとって思いがけないものだったのだろう。後ろから坂田さんが私のことを呼び止める声がする。その声には戸惑いと焦りが滲んでいて、少しだけ罪悪感を感じた。い、いやそもそも全部坂田さんが悪いのだから呼び止められたとしても気にするものか。

制止も聞かずに店の外へ出ると、店の前では紅葉(もみじ)の葉が空を舞うようにひらひらと散っていた。とても綺麗だ。

でも桜や紅葉が共存するなんて、この世界の季節というのはどうなっているんだろう。真っ赤な葉をつけた紅葉の木は、頬を撫でるようなそよ風に葉を揺られながら静かに佇んでいた。綺麗な赤色の景色に見惚れていると、不意にユリのように上品な甘さのある香りが鼻腔を掠める。

すると、途端にふわりと誰かに包まれるような感覚がした。視界には、百合が金色の糸で刺繍された白と黄色の着物が映っている。誰かに抱き締められたらしかった。そしてその誰かは、落ち着きのある声色で言った。


「全く……抜け駆けなんてずるいんじゃないの、坂田」

4.黄色の鬼。→←・



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李 雨月(プロフ) - かわいい私が好きさん» その言葉がいただけて字書き冥利に尽きます(照) タイトルもこだわっているので褒めていただけて嬉しいです。コメントありがとうございました〜! (2022年11月8日 22時) (レス) id: 8fe15b8549 (このIDを非表示/違反報告)
かわいい私が好き - 題名だけでドタイプを貫いていたので覗いてみたらもう最高の作品に出会いました👐✨これからも読み続けます😉 (2022年11月4日 20時) (レス) @page12 id: 28b1a8c3b0 (このIDを非表示/違反報告)
李 雨月(プロフ) - みこさん» 一コメですよ〜!面白いと言っていただけてとても嬉しいです!コメントありがとうございました◎ (2022年10月17日 0時) (レス) id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
みこ - 一コメ、、、?めっちゃ面白いです!ありがとうございます!更新楽しみに待ってます! (2022年10月10日 15時) (レス) @page11 id: 3112c05530 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白雨 | 作成日時:2022年9月19日 21時

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