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銃兎さんの部屋を見上げるも、明かりはついていない。



あの人のことだから、目の下に酷い隈を描きながら馬鹿みたいに遅い時間まで仕事してるんだろう。




ガチ、と回りきらないドアノブ。




いないと分かっているのに、部屋の前まで来てしまうのは、


もしかしたらちょうど帰ってきた銃兎さんに会えるかもしれない、



なんて夢を見ているからだろう。





「はぁ……」




白い息が宙へ消える。



チョコレートの入った袋をドアノブに引っ掛けて、帰ろうと廊下へ足を向ける。




――それから数秒、私は呼吸の仕方を忘れてしまった。




あまりにも目の前の光景を理解するのに時間がかかってしまったせいだ。




「久しぶりに会って初めに聞くのがため息とは、思いませんでしたね」




疲れを含んだその声で、優しく緩められる顔。




目の下に酷い隈と皺を描いた銃兎さんの姿がそこにあった。




「じゅ、銃兎さ」




氷のように冷たい赤い手がそっと頬に添えられる。




冷たい温度にビックリして目を瞑れば、暖かな唇が触れる。



ふっと煙草の匂いが揺れて、唇が離れた。




「……隈酷いですよ」




「ちょっと仕事が立て込んでましてね」




頬に添えられた手は流れて頭の上へと乗せられる。




「バレンタインにわざわざ届けてくれたんですか?」



銃兎さんの視線はドアノブにかかったチョコレートへと向けられている。




「会えないかと思って」




「ふふ、会えて良かったですね」



よく言う。私なんかより銃兎さんの方がよっぽど嬉しそうにしてるくせに。




「銃兎さんこそ、会えて良かったですね」



「……相変わらず、生意気ですね。貴方は」



「お互い様じゃないですか?」




活気のない銃兎さんの頭をぽんぽんと撫でてやる。




「まったく、貴方は……」




そう言って銃兎さんは私の手を取る。




「さて……ここで貴方に二つの選択肢をあげます」




「え?」




指を一本ずつ交互に深く絡ませながら、銃兎さんは意地悪な笑みを浮かべ、囁いた。









「私に家まで送り届けられるか、私の部屋で一夜を過ごすか。どちらがいいですか?」







「……疲れてる人間の言うことですか、それ」








引っ掛けていたチョコレートを回収し、手を引かれるまま銃兎さんの部屋へと入った。

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おたくちゃん - ゴハァ(吐血)最推し...尊い... (2021年5月7日 21時) (レス) id: 210f23da0b (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - コメント失礼します。一気読みしてしまうくらい面白かったです。そして、めっちゃドキドキしました(*´ω`)この物語、大好きです! (2021年1月3日 20時) (レス) id: e7a52269e4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:月斗。 | 作成日時:2020年12月17日 7時

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