彼女のルージュを落とす時１ (ページ23)

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22.前夜←11/5 ページ23

松村「Aさん、これでいいですか？」

松村くんが来て数日

当たり前に出来ることなのかもしれないけどいまだにPCに慣れない私にとっては
それを一瞬にしてこなす松村くんが凄い人に見えた

事務的なこともだけどスーツについてもよく勉強してくれていて
オーダーメイド以外のお客様の接客は任せてもいいんじゃないかと思えるくらいだ

「うん、ありがとう、後は私一人で大丈夫だから松村くんは先にあがって」

松村「いえ、最後まで残りますよ」

明日はいよいよ結婚式

なんとそこから一週間のハネムーン

暫くお店はお休みする事に

だから色々とやっておきたいこともあって
″最後まで″の時間も何時になるかわからない

「でも」

松村「明日は結婚式なんですよね」

「そうだけど」

松村「俺も明日から休みだし、出来るだけ早く終わらせた方がよくないですか」

そう言った松村くんは私の後ろに視線を意味ありげに向けた

それに合わせて振り向くと

「……え？」

お店のウィンドーの向こうに見えた人影

後ろ姿

なのに誰だなんて考えなくてもわかる

「うそっ」

縺れる足に

「嘘っ」

声がつっかえる喉に熱が宿る

急いでお店のドアを開けた

「オーナーっ」

私の叫ぶような声にビクッと肩を揺らすと

吐く白い息の向こうに柔らかく笑う笑顔が見えた

大野「よっ」(笑)

会いたかった

あの夜以来だったから

ガイフォークスナイト

気づいた時にはオーナーはいなくて

「″よっ″っじゃないですよっ」

ぎゅっと握った両腕のコートは冷たくて

大野「お前いつからそんな感情豊かになったの」(笑)

許されるなら感情のままに抱き締めたかった
でもこれが許される距離だと

「もうっ笑い事じゃない…っで……すよ」

掴んだ手を滑り落とすようにはなした

大野「ごめんって(笑)…………A？」

「…お帰りなさい」

私の言葉に変わらずふわっと笑う

その笑顔に安心して

大野「ただいま」

そしてまるで子供を慰めるような手に私の頭をクシャリと撫でる

大野「店、見てっていい？」

「勿論です」

お店に初めて入るオーナーは直ぐに中にいる松村くんに気づいた

「あ、えっとお店の事務関係をお願いしてる松村くんです」

お互いに軽く会釈する

「こちらはこのお店の元々のオーナーでテーラーの大野さんです」

松村「″大野″さんって…Aさんの旦那さんですか？」

「えっ、あ、違くて…大野さんは私の″イトコ″」