11.初心 ページ12
二宮さんの会社はいまやアプリケーションから不動産まで幅広く私にはわからないけど
二宮「まぁ、そのお蔭で新しく記帳という趣味は追加されましたが」(笑)
彼の笑いを誘う言葉に会場にも笑いがおきる
彼の職人気質な部分と成功を天秤にかけると
きっとその笑顔の輝きのぶんだけ失ってきたものは大きかったんだろう
そう思うと好きな事をやり続けられる自分がどれだけ恵まれているのか
イギリスで見つけた目指すものを忘れてはいけないと思った
二宮「ただ、ある人に出逢って」
彼の優しい笑顔にまた会場は静かになり
二宮「仕事とは何か」
彼のいうある人が誰なのか
二宮「自分が今やっている事が何が目的なのか気づかせてもらいました」
仕事での良い出逢いがあった事に私も笑顔に彼を見ると不意に合った二宮さんの視線
二宮「彼女は言いました」
いや
不意にじゃなく
二宮「自身が作ったものが素敵だと褒められるのではなくその人自身が素敵だと思われるような」
彼は真っ直ぐに私を見る
二宮「そんなものを作りたいと」
それはイギリスから帰って中村さんのお店で彼に話した事を思い出させた
二宮「私自身もそうでした」
そらすことのないその真っ直ぐな視線に
二宮「自身が作ったアプリケーションで人々の暮らしが少しでも豊かになればいいと」
自然と会場の人達の視線がこちらに流れる
二宮「その人に先日結婚を申し込み承諾いただきまして」
彼の照れたはにかむ笑顔とは別に私の心臓は止まる
二宮「私事ですがこの度婚約しましたことをこの場を借りてご報告したいと思います」
そしてそんな私に意地悪く上げた口角に
二宮「大野Aさん」
私の名前を呼ぶと一斉に向けられる視線
どうしていいかわからない私にそっと背中に手をそえ促してくれたのは二宮さんのお母さんだった
集まる視線から逃げるように二宮さんの元に歩いていく
ただ私は緊張よりも彼が私の言葉にそんな風に思ってくれていた事に胸がいっぱいだった
数段の階段の前に差し出された二宮さんの手をとると
何処までも幸せそうな笑顔
何だかそれが悔しくて下唇を噛むと更に眩しい笑顔に笑う彼
二宮「まだまだ未熟者ですが家庭を持ち今まで以上に邁進していきたいと思いますのでよろしくお願いいたします」
彼に引き寄せられ並んで見えた景色に
ある違和感を感じた
それに気づくまでにそう時間はかからなかったし
それどころじゃない感情に涙をこらえる方に必死だった
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作者名：2-38
| 作成日時：2020年4月4日 11時
