ガソリンだって飲みましたそれでも死ねなくて泣き続けてもしねませんでした ページ8
アルコールで震えていた指は文字の止め払いを的確に繋ぎ、報告書を埋めている。
酒を絶ったと聞いた日、俺と傑はそれぞれ持っていた飲み物を落とすくらいに動揺した。
「お前、マジで酒辞めたんだな」
「元々、好きで飲んでたわけじゃないし」
任務の帰り道、揺れる車でも綺麗な文字なのは驚いた。
しかし、完全に酒が抜けても感情の無い目と木の枝と見紛う細腕に変化は無い。
「飯食ってんの」
「栄養剤だけ。水は飲んでるよ」
「それは傑から聞いてる。パンとか米だよ」
味覚が無いと申告したAは翌日から一日一度の点滴に錠剤の栄養剤を飲むことを義務付けられた。
今迄の生活も改善され始めたらしく、睡眠の際も傑の呪霊を使うことも徐々に減っている。
「固形物はまだ無理。吐き戻すから」
「…あっそ」
「…あの、さ。今迄ごめんね。三人とも忙しいのに私の監視までさせちゃって」
「別に。俺らそれで金貰ってるし」
「ははっ、悟には端金でしょ…一人で行動できる許可取れるよう頑張るから。よし、完成」
今日だけで担当した8個の任務報告書。それらを書き終えるとAは制服の上着を脱いで背もたれに落ち着いた。
下に着られたワイシャツはAの上背にあっていても肉の無さからか、余り布が多い。
「任務には支障ないよ。誰にも迷惑はかけない」
俺の視線に気づいたのか畳んだ制服をトランクに放り出し、窓の外をみている。
「悟」
「なんだよ」
「今度さ───」
「外出?え、誰が?」
「私」
今迄酒を買う以外で私的に部屋からも出なかったAの口から出た提案。面食らってしまった。
「今まで任務以外で外でてなかったから。社会復帰も兼ねて。悟は行くって言ってくれたんだけど」
「勿論っ、邪魔じゃなければ一緒に行くよ」
「良かった。二人が一緒じゃ無いと外出出来ないから」
あ、そうか。確かそうだった。初めてのことですっかり忘れていた。
「何か買いたいものでもあるの?」
「本。大好きな作家さんの新作出たらしくて」
「A…本読むの」
「読むよ。意外?」
「うん。文字なんて、もうまともに読めないと思ってた」
「傑のそれ無意識?タチ悪いね」
そう言ってAは笑い、もう寝たいとせがんできた。
呪霊を使っても最近の寝顔は穏やかなものが多い。隈が減ったからか。
そっと彼女の輪郭に手を添える。
いつか、君がその顔で生きられる時が来るよ。
生まれてごめんなさい。コレが最高の親孝行である事を願います→←全ての権利を放棄します
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ゆめ - 好きです!!もう泣きそうになりました泣 続き待ってます (3月31日 12時) (レス) @page47 id: 11bb5a386d (このIDを非表示/違反報告)
なっちゃん - 今まで見てきた夢小説の中で一番面白かったです!更新楽しみにしてます!! (2022年9月11日 0時) (レス) @page43 id: 0018f60a50 (このIDを非表示/違反報告)
黎明(プロフ) - すごい面白いです見てて泣きそう… (2022年4月7日 2時) (レス) @page41 id: fef02b0b38 (このIDを非表示/違反報告)
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