呪霊も人も殺したくない ページ23
「楽しかったね、黒井」
「はい。御三方のおかげで休暇らしい過ごし方が出来ました」
同じベットの上で黒井と談笑していた。
外には夏油さんの呪霊に、万が一の保険としてAがそばで待機している。世界で1番安心出来る場所だ。
「明日の朝は早いですから、ごゆっくりお休み下さい」
ベット脇の小さな椅子に腰掛け、本を開いたAの顔を覗くように見上げる。
「そう堅苦しく話すでない。妾はAとも仲良くしたいぞ」
「…私と仲良くしても利益は無いですよ?」
「利があるかどうか判断するのは妾じゃ。Aは本が好きなんじゃな」
ホテルの売店で買ったであろうブックカバーの着いていない本は昼間のものとは違う。
夫婦善哉と書かれたそれを閉じるとAはやっと顔を見せてくれた。
「…理子さんは好きな本はありますか」
「んー、学校がミッション系じゃからなぁ…あ、聖書は身近じゃ」
「聖書…ですか。仏法書は読んだことありますが聖書はまだ手をつけてないです」
つまり読んだことがないんだ。
人生においてあらゆる指南が記されている真っ黒な革表紙の本は毎日持ち歩くように学校から口酸っぱく言われていた。
と言っても、明日になればその本もお役御免。そうだ。
「黒井、妾の聖書は?」
「はい。こちらに」
まだ一年ちょっとしか使ってないため目立った傷は無い。人に譲ることに問題は無いだろう。
「A、これを貰ってはくれぬか」
「えっ」
「妾にはもう必要のないものじゃ。読んでくれるものが持っていた方が良いに決まっておる」
Aは少し迷ってからそれを受け取ってくれた。
小さく感謝を述べると読んでいた物をしまって聖書の表紙を捲り始める。
感情起伏が少ない顔には確かに精一杯の嬉しさを露わにして読み進めていた。
ここまでが美しい記憶。
その後は悲惨の一言に尽きる。
もう少しで天内理子は普通を生きることが出来たのに。私の上位互換のような存在が、鉛玉でそれを阻んだ。
気絶させられた傑の次は私とでも言うように、呪具を鳩尾へ正確に当ててくる。
感じたことの無い圧迫感に一瞬身体が止まった。
「っ……!効くかよ、ボケ」
胃液がせりあがってくる初めての感覚に口の中の唾液を吐き出す。
こちとら中途半端でもフィジカルギフテッドなんだ。
「タフなヤツだな…もしかしてお前、俺と同じ口か?」
瞬きよりも短い時間で何かをされた。倒れていく体に意識がついて行かない。
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ゆめ - 好きです!!もう泣きそうになりました泣 続き待ってます (3月31日 12時) (レス) @page47 id: 11bb5a386d (このIDを非表示/違反報告)
なっちゃん - 今まで見てきた夢小説の中で一番面白かったです!更新楽しみにしてます!! (2022年9月11日 0時) (レス) @page43 id: 0018f60a50 (このIDを非表示/違反報告)
黎明(プロフ) - すごい面白いです見てて泣きそう… (2022年4月7日 2時) (レス) @page41 id: fef02b0b38 (このIDを非表示/違反報告)
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