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春の終わり、桜も新芽を出した。
何気なくAの部屋を訪れる。
今日も起きていない。ずっと眠り続けているが鼻のチューブから送られている栄養剤のおかげか顔色は起きていた頃に比べると何倍もいい。
空気を入れ替えようと窓を開けると強い風が春色と共に部屋へ吹き込んだ。
「ははっ、髪の毛が顔にかかってしまったね。いまよけるよ」
髪の毛を払うと少し湿っていた。恐らく朝体を拭かれた時に一緒に綺麗にされたのだろう。こんな状態でも大切に扱われているようで安心した。
「君の休暇は長いね。そろそろ起きないと本当に2年生になれないよ」
高専に登録してある呪霊を一体取り出し、Aの意識へ語りかける。
無防備で脳を呪力で守ることもままならない状態の今なら声は届いているはずだ。
恐らく無視をしているのだろう。以前より肉付きの良くなった腕を持ち上げる。当然握り返しては来ない。
今思うとAは私や悟に対して手を握り返すようなことはしていない。反転術式が使える硝子にだけは、抱擁も手繋ぎも許していた。
「君なりの気遣いだったのかな。私たちは君の力くらい流せるよ」
だから少しでいい、握り返してくれ。
そう願った瞬間、微かに指先が擦れた。直ぐにAの顔を確認するが瞼は開いていない。
反射か?それとも…
「A、」
「傑ー?きてんのかー?」
「いるよ。どうした」
「ヤガせんが早く来いってさ。ほら、歌姫と冥さんがまだ帰ってきねーやつ」
「あぁ。わかった。A、私たちは先輩達の応援に行ってくる。念の為に今日は硝子もつれて行くから寂しいだろうけど待っててくれ」
「寂しいつっても寝てるやつが悪いんだよ。さっさと行こーぜ」
「そう言うなよ。じゃあねA」
起きていたなら、君が好きだった作家の新作を持っていくよ。君が買った本の続編だ。
「わー!この人がAさんかぁ」
「灰原、少し声を」
高専で一番日当たりがいい一室に僕たちの先輩は寝ていた。
一年生の時に現場で負傷して以来寝たきりだそうだ。
「騒がしくしてたら起きるかもしんないじゃん」
それに今は先輩達が応援で不在だ。偉い人が謝ってここに来ないように、Aさんが起きた時寂しくないように色々やっておこう。
「五条さんが来ても起きてないでしょう」
「確かに。あ、空気入れ替えないと」
いくら他の人がやってると言ってもこまめに空気を入れ替えることは大切だ。
どんな人なんだろうか。早く話がしてみたい。
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ゆめ - 好きです!!もう泣きそうになりました泣 続き待ってます (3月31日 12時) (レス) @page47 id: 11bb5a386d (このIDを非表示/違反報告)
なっちゃん - 今まで見てきた夢小説の中で一番面白かったです!更新楽しみにしてます!! (2022年9月11日 0時) (レス) @page43 id: 0018f60a50 (このIDを非表示/違反報告)
黎明(プロフ) - すごい面白いです見てて泣きそう… (2022年4月7日 2時) (レス) @page41 id: fef02b0b38 (このIDを非表示/違反報告)
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