じゅうはち!〜Badend〜 ページ39
「愛してる」
暗い部屋、彼は呟いた。
「愛してる」
同じく暗い部屋、彼女は繰り返した。
その言葉に満足そうに彼は笑う。
「ははっ、リリィもか。一緒だな?」
「一緒」
彼女は虚ろに自らの言葉を反芻しているだけだというのに愚かな彼は笑う。
その一組の男女は一国の主とその妻だ。
一人は敵の攻撃で、一人は相方が壊れたことにより、壊れた。
一国の主である彼のほうは勿論仕事をこなす。
しかし、仕事が無いときはずっと壊れた彼女といる。
昔の彼を知る者は口を揃えて言う。
『リムルはリリィが壊れてから壊れた』と。
「好きだぞ」
「好き」
どんなに手を尽くしても治らなかった彼女を治すことをあきらめた彼は都合のいい現実しか見なくなった。
曰く、彼女の心は壊れていない、と。
曰く、彼女は自分を愛してくれていると。
心が壊れた彼女にはかつて愛した彼のことさえわからないと言うのに。
心が壊れた彼女には愛どころか感情そのものがないと言うのに。
だから、ほら、今でも彼女は虚ろな目で虚空を見ている。
その蜜色の目は時折瞬くことはあれど、彼を見ることはない。
それでも彼は都合のいい妄想の中、都合のいい夢を見て、都合のいい言葉だけを彼女にかける。
「ずっとずーっと一緒だぞ?」
「ずっと」
なにかが違えば、違ったのだろうか。
きっと違ったのだろう。
違った未来があったのだろう。
例えば、彼が諦めず強行手段にでていれば?
例えば、彼が自分で攻撃を避けたのなら?
例えば、あの日、森に居なければ?
例えば、例えば、例えば、例えば__
世界には無数の『例えば』があり、それが悲劇的な、或いは喜劇的な結末を迎えるのかはその『
つまり、考えても同じこと。無意味なこと、せんなきこと。
この世界には、一国の主夫婦が壊れたと言う事実しか残らない。
「はははっ、好きだぞリリィ……」
「好き」
……
…………
………………
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まっころん(プロフ) - あおさん» ありがとうございます!今は諸事情により更新を停止している状態ですが、待っていていただけると幸いです! (2020年8月6日 22時) (レス) id: e0298bbebe (このIDを非表示/違反報告)
あお - 面白いです。応援してます。 (2020年8月6日 19時) (レス) id: af729b494b (このIDを非表示/違反報告)
まっころん(プロフ) - 申し訳ありませんでした。すぐに移動させてもらいますね! (2019年9月14日 15時) (レス) id: e0298bbebe (このIDを非表示/違反報告)
ココロノオト(プロフ) - はい!すみません! (2019年9月14日 11時) (レス) id: 02837942e8 (このIDを非表示/違反報告)
グリノワ(プロフ) - あの、コメント欄で会話をされると、占いツクール自体に負担がかかるのでボードに移動してもらってもよろしいでしょうか?お楽しみのところ申し訳ありませんでした。 (2019年9月14日 11時) (レス) id: 542ea26681 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まっころん x他1人 | 作成日時:2019年6月30日 20時