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9 夏油 ページ11

最初は、気づかなかった。

 仙台駅で彼女が自分の横を通り過ぎた時、いい香りがして、思わず振り返ったのだ。

 振り返った先にいたのが、後ろ姿が綺麗な、高身長の女性だった。

背中で波打つ黒髪が歩を進める事に揺れている。スカートから覗くふくらはぎは白く、しなやかな筋肉がついており、ハイヒールは履きなれているのだろう、キャリーバッグを引いているにも関わらず姿勢が綺麗で安定しており、女性にしては歩幅が広く早足だ。
 
 彼女は迷うことなくエスカレーターに乗って下の階へ降りて行く。

 例の術師といい、最近女性に目が行くことが多いな。と自身に呆れながら、夏油もエスカレーターで下の階へ降りる。

すると、ステンドグラスが見えた。とりあえず、ここでバス停の場所を検索しよう、と携帯を出した、その時。


「すみません、お姉さん!」

「...........。」

「お姉さん、お姉さん!美人っすね、この後....」

「...........。」


 先程の女性が、また夏油の前を通り過ぎた。次はチャラそうな男と共に。いや、正しくは付きまとわれていると言った方がいいだろう。

 所謂ナンパだ。

 彼女は慣れているのか、興味が無いのか、はたまたどちらもなのか、表情を変えずに無視。男に目も向けず無視。

 あの様子だとナンパの類いは苦手なのだろう、としつこく声をかけるも最後まで無視され、折れたであろうチャラ男に少し同情する。いやいや、そんなことより。

 顔がはっきり見えた。はっきりと。

 白い肌、ボルドーで彩られた唇、濃いめのアイメイクに目を縁取るようなまつげは、悟のバサバサまつ毛にも負けないな...と思いながら、見覚えのある顔立ちに夏油はハッとする。

 前任者の、あの術師だ。

 夜蛾のデスクで見た、あの写真。

あの写真は前髪がありストレートヘアだったためだいぶ印象が違い、断言はできない。しかし身長といい、顔立ちといい、あの写真の女性とそっくりだった。

 いや、まさか...。

そう思いながらも、歌姫が言っていた事が頭をよぎる。今回の任務地は、彼女の地元であると。そうなると、ありえない話ではない。しかし、あまりにできすぎた偶然。半信半疑ではあった。

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作成日時:2021年7月22日 22時

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