彼女Editor(３) ページ8
だから、じっくりしっかり時間をかけて言葉と行動で落としていった。
初めこそ訝しんでいた彼女も、三か月も経てば僕の言葉と行動を受け入れるようになった。
それから、Aの同僚からAの好きなものを聞き出してプレゼントしてみたり、
強引に悩みの相談相手になったり、泣いているのを見つけたら慰めてあげるようにした。
彼女はそうやって徐々に落ちていって、ついには僕の手のひらの上にまで来てくれた。
でもこのときには既に、僕は「ただ恋人になるだけじゃ物足りない」と思うようになってきていた。
―――蕩かして、甘やかして、僕の前では何も取り繕えなくさせたい。無様に嫉妬してみて欲しい。僕のことが好きで好きで仕方なくなって、僕がいないと不安になってしまえばいい。
―――僕しか愛せなくなればいい。
…「ミイラ取りがミイラに」なんてよく言うけど、今の僕はミイラ取りを馬鹿にできない。彼女を落とそうとしたつもりが、僕の方まで落ちてたなんて。
―――あー、可愛いなぁ。僕はそう思いながらAを見る。
可哀想に。僕に出会わなければ、たとえ表面上だけとはいえ君はずっと気高いままでいられただろうに。気高いままで人知れずあの公園で泣いていられたのだろうに。
けれど今日この日から君は変わる。君はもうあの気高い君には戻れなくなる。
―――ああ、可哀想に。君は僕なしでは生きられなくなってしまうのだから。
―――…そうしてまた約半年が経った…―――
「行かないで…置いてかないで…お願い…。」
―――Aはきれいに整えられていた髪を振り乱して僕にしがみついてきた。
僕たちが付き合い始めてからもう一年近くがたつ。
あれほど頑なだった彼女は今やもう見る影もなく、僕に縋りついてしか生きられない女の子になった。
長かったなぁ…としみじみ思いながら腕の中の彼女を見る。
―――うん、今日も可愛い。僕のプレゼントしたネックレスあの日からずっとつけてるんだ、とか、その服って前に僕が可愛いって言ったやつだね、とかそんな歯の浮くようなセリフが頭の中でぐるぐるする。
「大丈夫、どこにも行かないよ。」
―――僕がそう言うと、Aは顔をあげて嬉しそうに僕に微笑んだ。良かった、なんて言って。
―――大丈夫、安心して。僕は君をこれからも離さないつもりだから。
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作者名：Entero-spiro | 作成日時：2019年2月13日 14時
