彼女Editor(１) ページ6
―――最も彼女の思考を占める存在は僕でありたい。
男なら、とは言わないけど、一人の人間を一心に好きになった人であるならば誰だってこう思うはずだ。
―――愛する人が自分だけを思ってくれたらどんなに幸せなんだろうって。
僕のことを思ってくれていて、僕に近づく他の女の人に嫉妬しちゃうくらい僕のことが好きで、けれども香水臭くて化粧お化けみたいな女の人のようにうざったらしくまとわりついてこないような、そんな可愛い彼女。
欲しいと思う人なんて、きっと僕以外にも五万といる。だからもし、こんな事をしてしまったとしても何にも可笑しくないよね。
―――躾とはちょっと違うけど、でもそんな感じ。
え？全然してないよ、痛いことなんて、全然。僕はただちょっと「誘った」だけ。
傾斜のついたなだらかな丘を、ゆっくりとボールが転げ落ちていく様子を思い浮かべてよ。
僕はただ、その丘の一番上にあった「彼女」を、そっと小突いてあげただけ。
―――僅かな躊躇いの後にコロコロと等加速度で堕ちていく彼女はとっても良かったなぁ…。
僕はそれを見てるだけ。止まることもできず、寧ろより一層加速してドツボに嵌っていく彼女を傍観した。
―――心地の良い愉悦と共に。
―――…「A」はしっかりしているようで、けれども一枚岩の上に成り立っているような危なっかしい人だった。
表向きは感情表現が豊かで、誰に対しても真摯にコミュニケーションをとろうとする、そんな人。
そんな人だったから、別に初めの頃は彼女のことがそんなに好きじゃなかった。
Aの周りでは多くの人達が楽しそうに談笑していた。その多くが彼女の意見の強さに惹かれてきた人間たちだった。
Aはあまりにも気高かった。だからこそ、僕は態々手を伸ばそうとも思わなかった。
―――でもそんなとき、Aの本当を僕は見たんだ。
―――なんだか無性に外出したい気分になって、夜の街へと繰り出した日のことだった。
まだ秋の中旬とはいえ夜は中々に涼しく、僕はそんな中、いつものパーカーを着て公園の前を横切ろうとしていた。
そのときふと、誰かが嗚咽をあげたような声を聞いた気がした。
声の主が知りたくて公園の方へと目をやると、そこには。―――件の彼女がベンチの上で蹲りながら泣いていた。
一瞬、近づこうかどうか迷って僕はその場にとどまった。そして全く偶然のタイミングで彼女が顔をあげた。
―――目が合った。
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作者名：Entero-spiro | 作成日時：2019年2月13日 14時
