第188話:気まぐれ ページ43
言われたい放題である。
ただ、使えないという言い分は正しい。もう気力が持って行かれてるんだ許してくれ。
「……じゃ、寝ます」
「うん」
Aが素直に応じると、渡海はすっと放れていく。
「……。」
彼の遠くなる腕を追うように手が無意識に伸びたが、Aは諦めたように降ろす。
渡海もその気配には気づかなかったのか、素通りしてソファに身を預けた。
(……。)
彼女は誤魔化すように掛け毛布で身をくるんで身を縮めた。まだわずかに震える腕を抱く。
そういえば、今日でようやく三日連続の当直番は終わりだったろうか。
いやでも夕方まで辛抱だった。あー帰りたい。
(…あれ、でも、抱き枕………してない…、)
延長とかあるかなぁ。今回もまた彼に借りを作ってしまったな。
疲れ果てている研修医が再び眠りにつくのに苦労はしなかった。
一度そっと意識を沈めれば、引きずり込まれていくようにずるずると落ちていく。
.
「眠ってますか?」
「うん」
「顔色は…」
「悪いな」
「これは昼までぐっすりコースですね」
「…ネコちゃん一人で来たの?」
「……。美和ちゃんが心配していたので、ついでです。」
「へぇ」
「……。」
渡海はそれ以上の言及をしなかった。
どうせ見抜かれているんだろう。そう判断した猫田は特に遠慮はせず、
悪魔の教え子が眠るベッド脇に腰掛けた。
表情を覗き込む。瞼はしっかり閉じられていた。
(生贄、子羊、子犬……他になんて呼ばれてるのか知らないけど、不名誉な愛称ばかりだこと。)
子犬に関してはそこまで不名誉でもないか。名誉でもないが。
まぁ、愛称であることには違いないだろう。
彼女の話は花房の会話を発端に、看護師の間でもたまに出てくる。
良くも悪くも、彼女に対する印象は皆違う。
女版世良、悪魔に捧げられた哀れな子羊だと同情する者もいれば、
飼い主に噛みつく勇敢な子犬だと笑う者もいる。それは研修医などの間でも共通認識だろう。
「…、お疲れ様」
そんな彼女に対して、なんの偏見も持たない気まぐれな猫が鳴く。
すっと彼女の耳元に口を寄せて、再度囁いた。
「またね、A」
そう言った猫の影が仮眠室から消える。
狸寝入りは下手だなぁ。
誰かさんの耳が真っ赤に染まり上がったのを見逃さなかった猫田と渡海は、切にそう思った。
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snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白いです! (2018年9月22日 11時) (レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とてもわかります(;ω;) 確かに続編あったら…とも思うんですが(海堂シリーズ読破者としては特に!)、渡海先生…渡海先生…orzってなります…(笑) へへへっ、自分のペースでもりもりやっていきます!!ありがとうございます! そうなのよ奥さん!不思議ね!! (2018年7月22日 0時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - ペアンロスわかります。。ベイストで続編うんぬんの話を聞いてさらにロス再燃。。褒めて欲しい主人公ちゃんと甘えを逃した渡海先生の肩落ち加減がかわいいです…!Kさんがたのしく書けることを祈ってます。追い込まないで…。で、2人まだ付き合ってないの奥さん?? (2018年7月19日 20時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とても細かい所まで着目してくださっている!!!作者としてありがたいとこの上ありません(*´Д`*) (そして再びご返答遅れてしまいすみませんorz コメント自体に気づきませんでしたorzいつもありがとうございます…!) (2018年7月19日 13時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 緊張してキモオタみたいな喋り方しそうですが、よければぜひ♪私は描写、丁寧できれいな言葉でだいすきです。その傾向なかったり…?!(笑)渡海先生の問答で「美しい…」の答えに「…はい」の…がすてきです(マニアック)案外ノリとテンポのいい2人がすきです! (2018年7月11日 19時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:K | 作成日時:2018年6月14日 0時