指導医はオペ室の悪魔4【ブラックペアン】

第189話：素直な人 ページ44

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「……寝たい…」
「そうさせたいのは山々だけど…」
「あっいや、寝かせろって意味じゃないんです。ただ眠いってニュアンスで…」
「ふふ、わかるわかる」


高階は柔らかく笑う。
まだ顔色が優れない研修医の横顔に少し痛みを覚えながら、
医局のデスクに広げたスナイプの資料を片付けていた。


「田村さん、大丈夫そうですか？」
「ああ、問題ないさ。というか…今の君は、自分の心配をした方がいい」
「…それもそうですね」


現在、昼前。

仮眠室で一夜を明かしたAだったが、起きた頃に渡海の姿はなく、本日はまだ遭遇していない。


(…それにしても酷い目(？)に遭った…)


猫田に何やら囁かれてからしばらくドキドキが止まらなかった。
眠れはしたが、満足に疲れがとれたとは言い難い。訴訟だ。

それでも医者としての務めは果たさなくてはならず、
まだボロボロの状態で本日も誰かの命に右往左往中である。

究極に眠い。また気絶したら今度こそ謝罪だけでは済まされないと思う。
ちなみに猫田や花房、他あの時の手術現場に居合わせた職員への謝罪は済んでいない。

そんな中だが、本日は田村隼人さんのスナイプ手術だ。
Aは、渡海はスナイプを触ってもいないという情報を朝に世良から伺った。


(本当だとしたら結構やばい…？)


ちなみに結構やばいのはAも特に変わらない。主に身体面が。

反して、渡海はスナイプを触らなかったからといって失敗するような男でもない。
そんな根も葉もない信用をAは持っていた。


(どうせ関川先生が失敗した例でも挙げたんだろうなー)


練習積み重ねた奴だろうと失敗しただろ、とか言って。

高階先生のことだ。
きっと犬猿的な位置に居る渡海相手だろうとスナイプの資料は渡そうとしたに違いない。

だが渡海はきっとそれを受け取っていない。


(手術時間までに業務終わらせられるかなー…。モニターで見たいなー…)


だがどうであれ、渡海の手術をひとつでも多く見たいのは事実だ。
見ているだけでは技術は身につかないが、少しばかりの違いは出てくる。

それに、彼の手術は見ているだけで楽しい。
己の技術取得を目的とせず、ただの観賞用として撮っておきたいくらいだ。


「Aくん？」
「あっ、はい！すみません気が利かなくて…運ぶのお手伝いします！」
「いや、そうじゃなくてだね。なんだか楽しそうだね？」
「えっ？」
「頬あがってる」
「………シツレイシマシタ」


素直は時に敵だ。

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