第181話:エマージェンシー4 ページ36
空気がひりついた。
関川の手元が止まる。目は口ほどになんとやら。
口元が見えずとも、その見開いた瞳は驚愕を物語っている。
「なんだと…今は人手が足りない…!」
「で、ですが…!」
そうだ。現在は人手が足りない。
佐伯や黒崎は現在席を外しており、他に執刀医になれるような医局員も手が回らない。
今また急患が運び込まれてたって、処置できる人物など。
(…ひとり、だけ)
Aは、とある男に目を移した。それとほぼ同時だっただろうか。その男が口を開いたのは。
「俺がこっち引き継ぐ」
そう言った第一助手に、執刀医が振り返る。
渡海は関川に目を向けることなどなく、すでに執刀を代わろうと手を進めていた。
「…ですが、助手は…」
「そいつに決まってんだろ」
ゆらりと渡海は顔を上げる。
Aと目が合った。
(一難去って、また一難、ってか)
いや、たぶん三難ぐらい来てる。
■
「おら押さえろー、遅いよ手」
「はい、すみません。押さえます」
「吸引止まってるよ」
「はい、すみません。左いきます。」
「もうちょっと避けて」
「はい」
手術台。指導医の男と、研修医の女が向い合せて立つ。一点の患部に手を伸ばし、処置を施す。
数人ほど第二オペ室に流れて行ってしまった為、
ただでさえがらんとしている手術室は余計に静かだ。
第二に運ばれた患者の容態。それは、今自分たちが治療しているこの患者よりは軽い。
緊急手術が必要なレベルであったとしても、だ。
要は、難易度が低いのだ。あちらは。だからこそ渡海は関谷にはその第二を任せた。
それはいい。むしろ、手技が達者な渡海の方が難易度の高い方を選択するのは同然だ。
だからといって。
(……鬼め…)
胃が痺れる。ぎりぎりと奥が締め付けられる。
あの時のような失敗はまずしないと念じてはいるが、同じ緊張状態に晒されて精神が保つわけない。
吸引する手が僅かに震える。
糸も縫合器具も持ちやしてないのに、血の生温い感触があの地獄を脳裏に蘇らせる。
「…A先生、大丈夫かな…」
「えっ?なんで?渡海先生についていけてるじゃん」
「あ……。うん…、そう、だね…」
あの一件を眺めていた花房はぽそりと呟く。
聞こえていたのは彼女の真隣に居たもう一人の看護師のみのようで、
花房の発言に彼女は不思議そうな顔をした。
渡海の隣に立つ猫田も、じっとAの伏せた瞳を眺めている。
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snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白いです! (2018年9月22日 11時) (レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とてもわかります(;ω;) 確かに続編あったら…とも思うんですが(海堂シリーズ読破者としては特に!)、渡海先生…渡海先生…orzってなります…(笑) へへへっ、自分のペースでもりもりやっていきます!!ありがとうございます! そうなのよ奥さん!不思議ね!! (2018年7月22日 0時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - ペアンロスわかります。。ベイストで続編うんぬんの話を聞いてさらにロス再燃。。褒めて欲しい主人公ちゃんと甘えを逃した渡海先生の肩落ち加減がかわいいです…!Kさんがたのしく書けることを祈ってます。追い込まないで…。で、2人まだ付き合ってないの奥さん?? (2018年7月19日 20時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とても細かい所まで着目してくださっている!!!作者としてありがたいとこの上ありません(*´Д`*) (そして再びご返答遅れてしまいすみませんorz コメント自体に気づきませんでしたorzいつもありがとうございます…!) (2018年7月19日 13時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 緊張してキモオタみたいな喋り方しそうですが、よければぜひ♪私は描写、丁寧できれいな言葉でだいすきです。その傾向なかったり…?!(笑)渡海先生の問答で「美しい…」の答えに「…はい」の…がすてきです(マニアック)案外ノリとテンポのいい2人がすきです! (2018年7月11日 19時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:K | 作成日時:2018年6月14日 0時