第192話:詳細1 ページ47
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「モニターだけで判断した、と?」
「そういうこと」
「はーん………」
納得したとばかりの声は、溜息にもよく似ていた。
飲み干したゼリー飲料のキャップを締めてパックを丸める。
世良はAのそんな何気ない仕草を無意味に見ていた。
人気のない廊下の窓に映る木の葉が揺れると同時に、二人の会話が途切れた。
話題がなくなったわけではない、ということだけは言っておこう。
詳細な検査結果を聞いた。患者の心尖部の筋肉の話だ。
―――その心尖部を貫けば、形を維持できなかったかもしれない。
つまり、挿入した箇所から中心に心尖部が裂け、大惨事になっていたかもしれない。
まずスナイプとの相性は抜群に悪い状態だ。
この詳細は先程検査した結果判明したもの。
それを、渡海は。
(………つまり、そういうことだ…)
先述の通りである。
世良もAも口を開かない。二人の間に、沈黙による緊張はない。
どちらも考えていることは一緒だと両者ともに察している。
渡海の実力に改めて感服する。
その場に居合わせなかったAでも、世良の説明を呑めば彼のすさまじさを理解する。
何より、何度も見てきたのだ。
「……そして、高階先生はルート探しをこれから?」
「そう。3Dプリンターで、隼人さんの心臓を再現して。」
世良曰く。
渡海は唐突に手術をやめた。切込みすらしなかった。それはAも既知の範囲だ。
そして、患者の心筋状態を把握した高階は、新たなスナイプ挿入ルート模索を開始した。
「Aさんにも、手伝ってほしいと思って」
心尖部から攻められないのであれば、位置をずらしながら何度もシミュレーションする必要がある。
その模索に、高階は世良と共にAにも協力してほしいと思っていた。
世良もその意見には同意であり、こうしてすれ違ったついでにAに要件を伝えた。
「…うん、私に出来ることがあれば。」
その要望に、Aが断る理由はなかった。
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「そういえば、世良くん」
「ん?」
共に医局に戻ろうと並んで廊下を歩いている最中、Aが沈黙を破った。
「前は…、色々とありがとう。一応、落ち着いたとは言っておくね」
「えっ?」
主語がない。
世良はAの言葉に思い当たる節をすぐには見つけることができず、
きょとんとして声をあげたが、やがて「ああ、」と納得したように、口元を綻ばせた。
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snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白いです! (2018年9月22日 11時) (レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とてもわかります(;ω;) 確かに続編あったら…とも思うんですが(海堂シリーズ読破者としては特に!)、渡海先生…渡海先生…orzってなります…(笑) へへへっ、自分のペースでもりもりやっていきます!!ありがとうございます! そうなのよ奥さん!不思議ね!! (2018年7月22日 0時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - ペアンロスわかります。。ベイストで続編うんぬんの話を聞いてさらにロス再燃。。褒めて欲しい主人公ちゃんと甘えを逃した渡海先生の肩落ち加減がかわいいです…!Kさんがたのしく書けることを祈ってます。追い込まないで…。で、2人まだ付き合ってないの奥さん?? (2018年7月19日 20時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とても細かい所まで着目してくださっている!!!作者としてありがたいとこの上ありません(*´Д`*) (そして再びご返答遅れてしまいすみませんorz コメント自体に気づきませんでしたorzいつもありがとうございます…!) (2018年7月19日 13時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 緊張してキモオタみたいな喋り方しそうですが、よければぜひ♪私は描写、丁寧できれいな言葉でだいすきです。その傾向なかったり…?!(笑)渡海先生の問答で「美しい…」の答えに「…はい」の…がすてきです(マニアック)案外ノリとテンポのいい2人がすきです! (2018年7月11日 19時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:K | 作成日時:2018年6月14日 0時