第124話：異変4 ページ28
それでも渡海を起こすことはできない。
回診に遅れた理由にまさか「指導医に抱き枕にされてました！！」なんて叫べば、
即刻脳外科や精神科に引っ張られていくだろう。
あるいは渡海がどやされる。
その点は特に(Aにとっては)問題ないのだが、
大の男に抱き枕にされてたとか、何も事情を知らない者からすれば凄まじい案件だ。
知られて変に騒がれるのだって避けたい。
いざとなれば…無理矢理引き剥がそう。
「……ん」
黙々と今後の計画を思案していると、首元から声がした。
「お…？先生、起きました？」
「………んー……」
突然、ぎゅ、と、渡海は腕の力を強めた。
「へっ！？ちょ、ちょっと先生、」
「………1時間」
「…1時間、このままでいろって？」
「……。」
「ふざけたこと言わないでくださいよ…仕事ですよ…。」
「……。」
だめだ。もう聞いちゃいない。
(…こちとら、あなたと違ってやるべきこといっぱいあるんですけど…)
まるで見計らったかのようなタイミングだった。
彼は読心術でも持っているんだろうか。寝ていたくせに。
腕の力は強い。眠り始めたからか少し緩んだ様子はあったが、
さらに脱出困難になったのは変わらない。
(回診…………)
思い出すは、あの患者。殺しかけた、あの人。
術後の経過観察を、Aは何も知らない。どうしても、この目で確認したい。
どうせ回診の時間になれば、誰かがAを探し出す。
その際、仮眠室を訪ねる者もいるだろう。
そうすれば必然的に渡海は引っぺがされるだろうし。
1時間もこの状態のままというのは有り得ない話だ。
気まぐれに、渡海の背中を一定の間隔でぽんぽん叩いてみる。
たまにさすったりをして、気分を紛らわせた。
「お母さんに何度もやってもらったんだろうけど、私は覚えてないんだ」
独り言だ。息を吹き込んだような、すぐに消え入るような声。
眠っている渡海に、それは聞こえないだろう。
「お父さんには…、やってもらってたんだろうな。それも覚えてないや」
彼女は懐かしむように、窓の向こうを見上げた。
「この年齢になったら、背中を優しく叩いてくれる人っていないよね」
眠る渡海に語りかけているのか、自分自身に語りかけているのかは分からない。
「…もうちょっと、両親との思い出、覚えていられたらよかったんですけど」
生憎、もう。
……波乱な日常に追われ過ぎてしまった。
キャパシティを超えて、どんどん零れ落ちてしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1262人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
K(プロフ) - ふみさん» コメントありがとうございます！！大好きと言って頂けてとてもうれしいです（；▽；）！！ありがとうございます！！もはやこれ終わる予感がしない！って自分も思っております（笑）更新も頑張ってまいりますー！！ (2018年6月13日 23時) (
レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
ふみ(プロフ) - はじめまして。3まで読ませていただきました。とてもKさんのお話が大好きです。いつまでも見ておきたいので完結しないでください！笑大変ですが更新頑張ってください！ (2018年6月13日 21時) (レス) id: 26dbac27a1 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 甘楽さん» あ〜〜甘楽さんお久しぶりです！！コメントありがとうございます！！(；▽；)本当ずっとずっと読んでいただけてるんですね…！ありがとうございます…！ ドキドキいただきましたー！！やったぜ！！続編もバリバリ頑張っていきます！！(*´∀`) (2018年6月12日 18時) (レス) id: 8206d0720a (このIDを非表示/違反報告)
甘楽 - お久しぶりです！いつもドキドキしながら楽しみに読ませて頂いてます！続編おめでとうございます！続編も楽しみにしてます！！ (2018年6月11日 23時) (レス) id: 6c0600def1 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - メットさん» コメントありがとうございます！ワクワクドキドキして頂けてよかったです…！！書き甲斐があります(*´ω`*)！ たくさんの応援コールも本当にありがとうございます！！いっぱい頑張れます！！（笑）続編も楽しみにお待ちくださいませ(*ﾉωﾉ)！ (2018年6月11日 21時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：K | 作成日時：2018年5月22日 21時
