恋 彼らのお話2

１月25日　しんご ページ22

｢もしもーし｣

｢あいあい｣

｢元気？｣

｢おかげさんで。そっちは？｣

電話の相手は昔馴染みの女友達。
１年に１度だけこの日に電話してくる。

知り合いに連れて行かれた飲み屋の常連。
俺のこと、そこら辺の兄ちゃんみたいに扱ってくれるんが
心地よくって仲良くなった。
舌ったらずなフニャッとした声。
美人じゃないけど愛嬌のある笑いかた。
バツイチで俺よりずっと年上だってことは
全く気にならんくらいに惹かれてた。

仕事が軌道に乗ってきて
スキャンダルはご法度って釘刺されてた頃。
付き合ってたわけじゃない。
微妙な距離。

ある日たまたま常連が誰もおらんくて
二人きりになったとき。
他愛のない話してたはずなのに
1月25日が嫌いって言った。

｢ただでさえアタシの方が年上なのに
2日だけさらに年が離れるのよ｣
って寂しそうに。
24日はいいの。自分くらいお祝いしてやらなきゃ、やて。

｢なら、その日は一緒におればええやんか。
なんも気にならんくらいに甘えさせたるから｣
くさい台詞。
好きだってことさえ伝えてもいないのに。
本当は24日こそ一緒におりたいのに。

次の1月25日は無理矢理休みもらって
ふたりですごした。
恋人同士みたいに。
何度もキスして求めあって。
一緒に眠った。
このまま付き合っていけたらいいのに。
朝になったらそう伝えよう。
事務所に叱られてもええから。
でも目覚めたらもうおらんかった。
『ありがとう。１年で１番好きな日になった』
ってメモ残して。
誕生日の朝に泣いたのはそれ一度きりやな。

その後も店で会った。
普通の顔して。常連のひとりとして。
まるであの１日が夢だったみたいに。

翌年の1月25日は俺から電話した。
くだらない話して笑いあった。
店が閉店して会う機会がなくなっても
その日は電話で話をする。
メモ置いて行ってしまった意味は今も聞けないまま。

｢信ちゃん、今幸せでしょ？｣

｢おまえは？幸せなんか？｣

｢ふふふ。もうすぐ再婚するの｣

｢おぉ。そりゃおめでとうやな｣

｢信ちゃんも横山さんと、でしょ？｣

｢はぁっ？なんやのそれ｣

｢アタシの目は誤魔化せないわよ？｣

｢まぁ、な。そういうこっちゃ｣

｢でしょ？１日早いけどお誕生日おめでとう｣

｢１日遅れたけど誕生日おめでとう｣

｢ありがと。またね｣

｢おん。こちらこそありがとう｣

｢じゃ、おやすみ｣

｢おやすみ｣


真ん中の日。
電話はきっとこれが最後。
幸せでおってな。

１月25日。俺のたいせつな日。

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