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死んでしまっているのではないか、という不安が私の胸を駆け抜けた。だが、すぐに白澤様がひどい生命力の持ち主だったことを思い出して思い直す。神様なんだから、生きていてもらわないと困る。
私は白澤様の顔を支えて、そっと唇を重ねた。頬を膨らませて、辛うじて残っていた空気を送り込む。こんなことをして効果があるかは分からないけれど、キスだとか何だとか考えている余裕はなかった。
酸素を渡してしまったから、余計に胸が苦しくなっていた。早いとこ上がらなきゃと、私は白澤様の体を抱き抱えた。意識のない大人の男性の体はとても重くて、なかなか持ち上がらなかった。なんとか足をばたつかせて川底を蹴って体を浮かせると、暗い水中に泥が舞い上がった。
考えるだけだったら簡単だけど、人ひとりを抱えて泳ぐというのは案外難しい。必死に足を動かして上へ上がろうとするが、その度に上がる高さは微々たるものでしかなかった。
息が更に苦しくなってくる。心臓がドクンドクンと音を立て、血管が脈打つ音が耳の奥で聞こえていた。全身の力を使って、体中の筋肉が悲鳴をあげていた。

――助けなきゃ。ハクが川に落ちた私を助けてくれたように。

何とか水面が近づいてきた。水面の向こうに、ぼんやりとした明かりがゆらゆら揺れている。もう少しで着く。安堵と期待に胸が苦しくなった。
その時、何かに足を掴まれた。体が動かなくなる。

なんか絡まるようなものあったっけ?

訝しく思って下を振り返ると、真黒な人形をした何かが私の足を掴んでいた。長く黒い髪がゆらゆらと水に揺れ、がらんどうの目が私を見ている。何かを訴えるように。幽霊と表現したくなるようなものだった。
ぐいぐいと下へ引きずり込まれる。あっ、と叫んで口から空気の泡が漏れて行った。気付けばそれは一人ではなく、数え切れない程の数の人影が川底から集まってきていた。足を掴む手がいくつにも増える。少しずつ、暗い暗い川底へ引き戻されてゆく。
不思議とこの時私の胸に浮かんだのは恐怖ではなく、怒りの感情だった。胸に抱える白澤様を抱き締める。

せっかくここまで来たのに、ふざけんな!

比較的まだ自由の利く方の足で、それの頭を思い切り殴りつけた。その一体は引っ込んでいったが、他の影が死んだ血液の色をした手でまた足を掴んだ。それも蹴り上げるが、同じことが繰り返されるだけで埒が明かない。
もう息も限界だというのに!
どうしようかと思いあぐねた時、足に激痛が走った。

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設定タグ:千と千尋の神隠し , ハク , ジブリ   
作品ジャンル:恋愛
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季紀(プロフ) - 一葉さん» 3周も読んでくださる方がいるなんて、感無量です( ; ; ) 感謝の気持ちで一杯です☺︎ ありがとうございます! (2022年6月19日 20時) (レス) id: 597a075cd6 (このIDを非表示/違反報告)
一葉(プロフ) - 見てるこっちもキュンキュンして、かれこれ3周目です笑この様な最高の作品を作ってくれてありがとうございます😍 (2022年6月19日 19時) (レス) @page49 id: 85091bc4a0 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - Sakuryaさん» まだ見てくださっている方がいると思わなかったので本当に嬉しいです。中学生の時に書き始めてついに大学生になってしまいましたが、大学は暇なので沢山ネタを考えているのでその都度更新していこうと思っています。笑 応援ありがとうございます。 (2019年6月6日 13時) (レス) id: 8fd0d878f8 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - 雪華さん» 暫く書いていないので文章も拙い中そんな風に言っていただけで嬉しいです。雪華さん何度もコメント欄?でお見かけした覚えがあります。いつもありがとうございます。 (2019年6月6日 13時) (レス) id: 8fd0d878f8 (このIDを非表示/違反報告)
Sakurya(プロフ) - 更新されたと通知があり、ものすッッごく嬉しくて!!今後もこういったかたちでいいので、私生活に支障が出ない程度に頑張ってください!ジブリのハクを好きでいてよかったと思える作品です!! (2019年6月5日 21時) (レス) id: e0447573e7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:kiki | 作者ホームページ:http://nanos.jp/catsong2/  
作成日時:2015年8月17日 23時

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